第165話 神樹への挑戦
ピュウをゴリアテさんの腕にとまらせると、フォーレさんには、牢の右側格子ぎりぎりに避けてもらい、俺自身は格子の左側一メートルくらいの場所に立った。
おそらく、その辺りが、なるべく『神樹』にダメージを与えず、そして魔術がかかった格子に影響を与えないぎりぎりのところだろう。
ガオゥンたちが、不安そうな顔で見守る中、右手で木に狙いをつける。指は二本そろえ右腕に左手を添える。
人が通れる最小限の穴になるよう、はっきりイメージした。
「ぶっ飛べ!」
バン!
体全体に衝撃を感じ、気がついたら空が見えていた。
弾きとばされたのは、俺自身だった。
体中が痛い。
「ぐうっ!」
なんとか立ちあがる。
「おい、グレン坊!
大丈夫か?」
こちらへゴリアテが駆けてくる。
「何があった?」
「……た、多分、木に近すぎたんだと思います」
「そうか、ケガはないんだな?」
だけど、木から離れると穴が大きくなりそうなんだけど……。
そこはイメージでなんとかするしかないのか。
「穴は開きましたか?」
「……自分で見て見ろ」
痛む全身をひきずるように、ゆっくり牢へ近づく。
先ほどスキルを撃ちこんだところを見ると……。
「なんだこれ!」
樹皮の表面が、手のひら分くらい薄く削れて白い木肌が見えているだけだった。
おいおい、どんだけ堅いんだよ、この木!
しかし、どうすればいいのかな。
確かに【スキルゲージ】は、「1」に設定しているから、まだ威力はあげられるんだけど、どこまで上げたら木に穴があくか、ちょっと分からないところがある。
なんせ、【中二病スキル】では、「1」から「2」にすると二倍じゃ済まないからね。
「うーん、どうするかなあ」
そのとき、あるアイデアが閃いた。
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名前:クロダグレン
年齢:17
レベル:155
職業:無し
犯罪歴:無し
装備:黒竜王のコート
スキル:言語理解、言語伝達
ユニークスキル:中二病(レベル9)
派生スキル:スタイル(レベル5)*4000→
派生スキル:ポーズ(レベル6)→
派生スキル:ラッキースケベ(レベル2)
称号:竜の子
山を喰らいし者
海を割りし者
スケベに愛されし者
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あー、見なきゃよかったよ!
なんか、【ラッキースケベ】のレベルが上がってる!
一番下に、変な称号まで追加されてるし、力が抜けるわー。
「おい、グレン、顔色が悪いが、本当に大丈夫か?
無理ならそう言え」
ゴリアテさん、体の傷より心の傷ですよ。
胸が痛いですよ、これは。
でも、俺が諦めたらフォーレが牢を壊すことになって、この木も枯れるんだよね。それは、なんか納得できないんだよ。
「も、もう一回やってみます!」
今度は、木から一メートルほど離れて立つ。
コートの内ポケットから、あるものを取りだし着けた。
「坊や、目をケガしたのかい?」
カフネのやつ、いちいちイラつくことを言ってくれる。
まあ、確かに眼帯を着けたらそう思うかもしれないけど……。
俺の狙いは、まだ調節に慣れていない【スキルゲージ】ではなく、【スタイル】でダメージを上昇させることなんだよ。
「なるべく離れててください。
今度は威力を上げますから。
下手したら、そっちまで吹っとびますよ」
カフネ、ガオゥン、そして、ピュウを腕にとまらせたゴリアテが神樹から離れるのを待ち、さっき樹皮が削れた所へ狙いをつける。
「黒き邪眼よ、黒竜王の衣よ、我に力を貸せ!
貫くものに生を与え、囚われの姫を助けよ!
闇の力よ、腕よりほとばしりて、神なる樹を穿て!」
スココーン!
うはっ!
調子に乗って、呪文は少し長くなったけど、なにこれ! 超気持ちいい!
ほら、ちゃんと人が通れるくらいの穴があいて……これ、牢の向こう側の壁までぶち抜いてない?
この木大丈夫か?
そんなことを考えているうちに、ゴリアテとガオゥンが二人して、穴からフォーレを引っぱりだした。
「グレン君、助けてくれてありがとう!
神樹様は、ご無事です!」
そして、フォーレさんが、ぎゅっと抱きしめてくれる……のはいいけど、豊かな胸に顔が埋まってます。息が苦しいです。
そんなことより……こんなことしてたら、【ラッキースケベ】がレベル3になっちゃう!




