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第164話 大樹の牢(下)

 ツタの格子を挟んで、フォーレとガオゥンが見つめあっているところに、ゴリアテがやってきた。


「フォーレ、元気かい?」


 ふぇ? これ、ゴリアテの声?

 いつもと調子が違うんだけど……なんか、優しい。


「ええ、あなたも元気そうで嬉しいわ。

 ミリネのこと……ありがとう」


「いや、俺が好きでやってることだから。

 それに、今はコイツもいるしね」


 頭の上に、ゴリアテの手がドンと置かれる。

 今ので、絶対に身長縮んだと思う。


「あなたは?」


「ええと、グレンです」


「コイツが、ミリネの騎士ナイトだよ」


 ゴリアテが、いらないことを!


「まあ!

 あの子も、もうそんな歳なのね……」


 美しいフィーネの顔に、限りない悲しみが浮かんだ。


「ミリネ、元気にしてますよ」


「そう……どうかあの子を守ってね」


「フォーレさん、それが事情が変わったんです」


「カフネちゃん?

 見違えたわ!

 ええと、事情が変わったって、どういうことかしら?」


「ミリネが教会の暗部に目をつけられてるんです」


「ええっ!?

 ど、どうしてそんなことに!?」


「それは俺が話そう」


 ミリネがなぜ教会に追われることになったか、ゴリアテは、それをフォーレに告げた。

 ミリネが馬車の事故に巻きこまれ、死にかけたがなぜか蘇生して元気になったこと。

 教会がそれに目をつけ、ミリネを追っていること。

 すでに『夜明けの光』に何度か襲われたこと。


「いくら、俺たち『剣と盾』が守っていても、いつどうなるか油断はできない。

 君の力を貸してくれ」


「でも、私はここから……」

 

 フォーレが細い指で、牢の格子に触れる。


「あのー、これって切ったりできないんですか?」


 牢の格子をなすツタは、それほど太いものではない。ガオゥンの大剣なら一撃で切れそうなのだが……。


「グレン、この格子には、特別な魔術がかかっていてな。

 これを切れば、この『神樹』が枯れるんだ」


「うーん、よく分かりませんが、この木、枯らしたらいけないんですか?」


「グレン!

 二度とエルフの前でそんなことを言うなよ。

 その場で射殺いころされるぞ!」


 カフネが、信じられない、という顔で俺を見た。

 どうやら、この木はエルフにとって特別な意味があるってことかな?


「じゃあ、別の策ですが、格子ではなく、木そのものに穴を開けるのはどうですか?」


「なっ、なんだと……」


 ゴリアテが息をのむ。

 しばらく考え込んだあと、彼はこう言った。


「確かに、それなら大丈夫かもしれんが、『神樹』の固い樹皮にどうやって穴を開ける?」


「ええと、ラディクさんは、俺がスキルで何とかできると思ってたようです」


「……なるほど、それはやってみる価値があるな」


「問題は、やりすぎて木を倒さないかってことですね」


「グレン、本気で言ってるのか?」


 カフネが、疑わしそうに俺を見た。

 あれ? 彼女、俺が山を消したの知らないのかな?


「ダメで元々、とにかくやってみましょう」


「グレン君、お願いします。

 あなたができなければ、私がやってみます」


「え? 

 フォーレさん……」


「グレン、彼女は強力な魔術がつかえるんだ」


「ゴリアテさん、じゃあ、なぜ今までそうしなかったんですか?」


「彼女が大人しくしていれば、ミリネをそっとしておいてくれるってのが、彼女と女王との約束だったのさ」 


「……」


「まったく、似たもの夫婦だよ、お前らは」


 ゴリアテが、ガオゥンの広い背中をドンと叩く。


「そのことを知った王弟グオゥンが、獣王ガオゥンに取引を持ちかけたのさ。

 王位を譲り、ドワーフ城でおとなしくしてさえいれば、ミリネを狙わないってな」


「ガオゥン、あなた、そんなことを……」


 なるほど、それじゃあ、フォーレもガオゥンも、娘のために王位を捨て、逃げようと思えば逃げられる牢に閉じ込められてたってことか。

 確かに「似たもの夫婦」だ。


「「グレン君……」」


 その二人から頼まれるわけ?

 こりゃ、失敗できないな。


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