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第163話 大樹の牢(上)


 小さなカワイイスライム改め、まっ赤なでかい凶悪魔獣『大ぐらい』を倒した後、もう四日は森を歩いている。

 その間、短い足がニ十本くらいありそうな大蜘蛛とか、雲のように群れる巨大蚊とか、口が三つもある大ヒルとか、とにかく悪夢に出てきそうな魔獣が、幾度も襲いかかってきた。

 ただ、ガオゥンの大剣、ゴリアテの大盾、そして、カフネの罠は鉄壁で、俺は出番がなかった。


 とりわけ、カフネが使う魔道具は種類が多く、その威力は目を見張るほどだった。

 蚊の大群を焼きはらった魔道具なんて、あれ、ほぼ火炎放射器だよね。一回で使い捨てる道具みたいだけど、このお姉さん、まさにテロリストだよ。

 そのうち、ロケットランチャーとかぶっ放すんじゃないか?


 森の中に開けた小さな空き地で倒木に座り、例の赤い丸薬をくちゃくちゃ食べながら文句を言ってみる。


「あのー、まだ着かないんですか?」


 向かいの倒木に座っているゴリアテが、手のひらで額の汗を拭いながら、からかうような視線を送ってくる。


「グレン坊、もう音を上げたのか?」


「そりゃ、音も上げますよ!

 四日間歩きづめですよ。

 ゆっくりお風呂に入って、フカフカのベッドに寝たい!」


「どこの貴族様だ、お前は!

 だが、まあ、もうすぐ着くぞ」


 ゴリアテの太い指は、木々の上をさしている。

 そこには、天を衝き、巨大な木がそびえ立っていた。


「……なんですか、あれ!

 遠近感狂いますね。

 どうなってるんですか、あの木?」


「フォーレは、あの『神樹』に捕らえられているんだ」


 そう言うゴリアテの顔には、苦悩と怒りがあった。


 ◇


 巨木に近づくと、音を立てないよう注意された。

 先頭をカフネ、次をガオゥン、それから俺、殿しんがりがゴリアテという配置で、一列となり進んでいく。

 巨木の前は切りひらかれており、広場のようになっている。

 小さな小屋が三つ並んでいて、牢番がいるはずだから、その詰所かもしれない。  


 もう少し近づくと、巨木の周囲を弓を背にしたエルフが歩いているのが見えた。

 エルフは三人いるが、木の向こう側にもいるかもしれない。

 

「坊や、動くんじゃないよ」


 カフネが俺の方へ振りむき、小声でそう言うと、身をかがめて走り、左手の木立に姿を消した。


 まもなく、エルフの一人が声もなく倒れた。

 それに気づいたもう一人のエルフが、何か叫びながら、倒れた仲間に駆けよる。すると、そのエルフも急に体の力を失い、仲間に重なるように崩れおちた。

 最後の一人は、弓を構え、周囲を警戒しながらじりじりと、仲間のところへ近寄っていたが、突然、自分の首に手を当てたと思ったら、ぱたりと倒れた。


 どこからかカフネが現れ、こちらに手を振る。

 えっ? 今のカフネがやったの?!


 ガオゥンがそちらに走りだしたので、俺も後に続く。途中、軽々と走るゴリアテに抜かされてしまった。

 

 カフネのところに着くと、三人のエルフはすでに目隠し、猿轡、手かせ足かせの完全拘束状態だった。


「しばらくは意識を取りもどさないが、他にも牢番がいるかもしれない。

 みんな、気を抜かないで」


 カフネがそう言っている間にも、ガオゥンは、大樹の根元へ近づいていく。

 

「フォーレ!」


 大きな獣人が木の幹に向け叫んでいる。

 近づくと、巨木の根元に洞のようなものがあり、それが植物のツルで格子状に塞がれていた。


「ガオゥン!

 あなたなの!?」


 ツタの格子越しに姿を現したのは、薄汚れた茶色のワンピースを着た、驚くほど美しいエルフ女性だった。





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