第15話 衝撃の事実
『おい、いつまで寝ている。いい加減に起きんか！』
聞き覚えがある声がする。今までの出来事は、卵の中で見た夢だったのだろうか？
目を開けると、目の前に巨大な竜ドラゴンママがいた。
「あれ？ ママ？」
『その言い方をやめろ！ しかし、巣立って間もないうちに、我が来なければならぬとはな。お前、全く強くなっておらんではないか？』
上半身を起こし、周囲を見回す。
黒く焦げた地面の向こうに草原と木立が見える。
「あれ？ さっきの夢じゃなかったの？」
俺がそう言ったのは、すぐ横にミリアが横たわっていたからだ。
顔色からして、魔獣にやられたようには見えなかった。
「猪みたいなのが二匹いたんだけど、ママがやっつけてくれたの？」
「知らんぞ。我はお前のケガを治しただけだ。そういえば、今しがた、この辺りで火柱があがっておったがな」
どういうことだろう。
そういえば、右手も右足も痛くない。
「あれ、治ってる！？」
手足を動かし、何の支障もないのに驚く。
『竜魔法の『治癒』を使った。死んでいないかぎり、手足や尻尾が無くなっていても元に戻るぞ』
いや、俺、尻尾ないから。だいたい、竜じゃないし。
「ミリネは？」
『そこにいる人の子か？ その子はドラゴンではないから、竜魔法が効かんぞ。それに気を失っているだけだから、その必要もないしな』
ドラゴンママは、その大きな口をミリネに近づけた。
「あっ、ミリネを食べないでよ！」
『誰が食べるか！ それにしても、この娘、変わっておる。獣人だけでなく、エルフの血が混ざっておるぞ』
「エルフ！？ はい、エルフ様キターっ！」
『……相変わらず騒々しいヤツだな』
「ママ、獣人とエルフの混血って珍しいの？」
『珍しいな。だいたい、獣人とエルフはいがみ合っていたはずだが――』
「あっ、そうだ！ 俺、どんなに頑張っても魔術が使えないんですけど。どうなってるんですかね？」
『それは無理だな』
「ど、どうして？」
『お前からは魔力が感じられん』
「ということは、魔術をいくら練習しても――」
『上達どころか、水一滴、生みだせぬよ』
ががががーん！
いや、ベートーベンのあの曲が頭の中で鳴り響きましたよ。
きゅーっポン、ってあの練習ナンだったの！？
「俺のきゅーっポンを返せー！」
『相変わらず、訳の分からぬことを叫んどるな。しかし、お前、どうしてこんなところにいるのだ。街には行かなかったのか？』
「いえ、行きましたよ、《《裸》》でね。もう大変でしたよ、なんせ《《裸》》でしたから。息子を《《裸》》で放置する母親ってどうなんですかね」
『だーっ！ 裸、裸、うるさいわ！ ドラゴンが服を着ぬのは当然だろうが！』
「でも、俺、どう見ても人型ですよね。この体で《《裸》》だと、色々見えたらいけないモノが見えるワケですよ。十八禁なわけですよ」
『えーい、うるさい！ それより、どこかに行く途中だったのではないか？』
「ええ、東の方にあるクレタンっていう街なんですが――」
『人族がつけた名前なぞ分からんぞ』
「そこ、なんとダンジョンがあるんですよ。ダンジョンですよ！」
『なんで興奮しておるのか分からんが、ダンジョンがある街なら知っておるぞ
』
「へえ、ママが知ってるくらい有名なんだね？」
『そこまで運んでやろう』
「ありがたいんですが、あーっ、またそれですか！」
ママの前足が俺と気絶したままのミリネをつかむ。
『当たり前であろうが。では行くぞ！』
ドラゴンママは、翼を力強く翻すと天高く舞いあがった。
