第12話 旅
ミリネの靴を買うと、ついでに食べものと飲みものを手に入れてから、俺たち二人は街を出た。
ゴリアテさんから渡された袋には、フードつきのポンチョっぽい服が入っていたので、ミリネにはそれを着せてある。
街の東門を潜り、外へ出る。
石造りの壁に囲まれた町からは、草原を通る道が続いている。
ゴリアテさんから言われたとおり、俺たち二人は、少し歩くと街道から脇道に入った。
道幅が広く人通りがあった街道と違い、脇道は馬車だとすれ違えないほど細く、道行く人の姿も、ちらほらしかなかった。
道が白っぽい木々の林に入ると、人影も途絶えた。
「グレン、私、お腹空いちゃった」
そういえば、お昼ごはんも食べず、歩きどおしだったもんね。
俺たちは、林を少し入ったところにある倒木に腰掛け、買ってきたものを食べた。
「うわっ! なんだこれ!?」
リンゴと思ってかじった果物は、むちゃくちゃ酸っぱかった。
「どうしてリンゴンなんて買うのかなあって思ったよ。それは調理しないと美味しくないからね」
リンゴン! 名前まで紛らわしいわっ!
「ミリネ、買う前に言ってよ!」
「そんなの知らないわよ」
ミリネの猫耳がピンと立ち、シッポが少し太くなっている。
どうやらご機嫌斜めのようだ。
「だけど、どうして、ええとなんだっけ、グラタン? 急いでその街へ行かないといけないのかな?」
「クレタンよ、理由は……分からないわ」
おーい、今の間はなんですか、あなた何か知ってますよね?
まあいいか。話してない事、俺もたくさんあるし。
「クレタンって、どんな所?」
「あそこは迷宮都市として有名ね」
「ちょ、ちょっと待ったー!今、なんて言った?」
「グレン、なに興奮してるの? クレタンは、迷宮がある街として有名よ」
「ミリネ様、迷宮ということは、もしや……」
「ダンジョンがあるよ」
「はいっ、ダンジョン、キター! うはー、愉快なダンジョン♪ 素敵なダンジョン♪ みんなダンジョン♪ ふーっ!」
「ちょ、ちょっと、どうしたの? なんで、鼻血出してるの?」
「あ、ホントだ! こんなのは、そこら辺に生えている草をぺいっとちぎって、ふんふぇふぃれららおっへー!」(ふんって入れたらオッケー!)
「ナニ言ってるのか分からないけど、ダンジョンにそんなに興味があるの?」
「はひー!」
「じゃあ、クレタンに行ったらダンジョンに入ってみる?」
「ふぅおー!」
叫んだ瞬間に、詰めていた草の葉が鼻からポンと飛びだし、どばっと鼻血がでた。
「あっ、あんた、なにやってるの!」
こうして俺たちの旅が始まった。
◇
「うわっ! かゆいーっ!」
目が覚めてみると、蚊に刺されたような痕が手と足にたくさんあった。
しかも、そのかゆさときたら、蚊の百倍はあろうかというもの凄さ。
昨日、森の中で寝たらこうなちゃった。
「ひいーっ!」
「あっ、それかいちゃうと、痕が残るわよ」
「ミリネはどうして平気なの、かいかいかいーっ!」
「だから、かくなって言ってるの! それ、森や林にいる『ちみ虫』ってやつに刺されたんだね。ちみっこいから『ちみ虫』って言うんだよ。だけど、この『香りの木』の下で寝ると、刺されないの」
「どうして教えてくれないの! かいいいーっ!」
「だって、そんなの常識だもん!」
しょうがない、そろそろ本当の事、言っちゃうかな。さあ、聞いて驚け!
「俺、異世界から来たから、この世界の常識なんて知らないもん!」
「ばかねえ、そんな冗談言って。魔術も使えないのに、『迷い人』のはずないでしょ!」
信じてもらえてない! それに、マヨイビトってなに?




