第126話 獣人の城(上)
獣人国の都グオゥンは、見上げるほど高い壁に囲まれていた。
街道が壁にぶつかる所に、巨大な門があり、そこに長蛇の列ができていた。
三角耳、丸耳、垂れ耳、長い耳、様々なタイプの耳を持つ獣人たちが並んでいる。
俺たちの馬車が、最後尾に並ぶと間もなく、門の方から槍を手にした獣人が駆けてきた。
兜をかぶっているから、何の獣人かはっきりしないが、革鎧からとび出している腕や脚を見ると、なんかもう筋肉ムキムキだ。
ゴリアテといい勝負だな。
「勇者様ご一行とお見受けいたす。
フギャウン王国への長旅、よう参られた。
わが輩、『獅子門』を預かるシャーンと申す。
どうか、こちらへ」
シャーンと名乗った獣人に先導され、客車は巨大な門の前にやってきた。
「開門!」
ググウー
空腹でお腹が鳴るような音がして、巨大な門が手前へ動きだし、やがて停まった。
両開きの門は、上から見るならハの字型に見えてるだろう。
「ようこそ、グオゥンへ!」
シャーンの声を後ろへ残し、馬車は王都へ入っていく。
◇
街に入り、大通りを三十分ほど進むと、シャーンは俺たちを騎士にゆだね、門の方へと帰っていった。
案内役の騎士は、鎖鎧を着て、やはり槍を持っていた。
どうして騎士って分かったかって?
自己紹介のとき、彼がそう言ってたからなんだ。
だけど、騎士って、なんか全身金属の鎧を着けてるってイメージだから、ピンとこないんだよね。頭にかぶっているのも、昔の飛行機乗りが被ってたような革の帽子だし。
騎士に連れられた俺たちは、大通りをまっ直ぐ突きぬけると、跳ね橋を渡り岩山をくり抜いたらしい城塞っぽい建物に入った。
「王城は久しぶりだのう」
後ろを歩くマールのそんな声が聞こえてきたから、ここが獣人国の城なのかもしれない。
石張りの広い廊下ですれ違う獣人がことごとく男性で、かわいいケモミミを期待していた俺は、ちょっとガッカリしてしまった。
ミリネとキャンは、馬車から降りる前に、マールから渡された茶色いローブを頭からすっぽりかぶってからずっとそのままだから、よけいにカワイさ成分が足りないんだよね。
しばらく歩くと、大きな木の扉に突きあたったが、騎士は迷わずそれを押し開けた。
壁と床、そして天井まで、磨いた岩のようなもので出来た広間は、大きな体育館ほどの広さがあった。
窓らしきものはあったが、その外に見えていたのは、やはり岩の壁だ。
それだからか、この岩の部屋は、言いようのない圧迫感があった。
まるで道のように白い石が貼られたまれた広間の中央を進むと、チェーンメイルを着た獣人が左右に並んぶ玉座があった。
そこだけ、三段ほど高くなった大きな白い玉座には、紅いマントを着た、大柄な獣人が腰を下ろしていた。
頭の上に三角耳がついているが、全くと言っていいほどかわいくない。なんか凶暴な感じがする。
「これはこれは、ラディクどの。
久しいのう」
近づくと、ますますその大きさが目立つ獣人は、腹に響く重低音でそう話しかけてきた。




