第123話 ごろニャン
みんなの姿を探すと、戸口を左右に大きく開いた小屋のような建物の所にいた。
店の前には、木の台がおいてあり、みんながそれに腰掛けてる。
近づくと、ゴリアテが持った皿の上には、饅頭のようなものが山盛りになっていた。
「坊主、ここの饅頭はうめえぞ!
俺ゃ、今回の旅行でこれを楽しみにしてたんだ」
そう言うと、ゴリアテは野球ミットのように大きな手で三つほど饅頭を掴むと、それを口に入れた。
それなのに、なぜか彼のほっぺたは、膨らんでいない。饅頭って飲み物だったのか?
「お、グレン、その黒いロングコート、なかなか似合っておるぞ。
ゴブリンにも衣装じゃな!」
ミリネは、褒めてるのか貶しているのか分からない。
「みゃ、みゃっ!」
両手に饅頭を持ったまま、キャンが、座っていた台からぴょんと立ちあがる。
俺に近づいてくると、小さな形のいい鼻で俺のコートをクンクンと嗅いでいる。
ポトッ
ポトッ
あ、こいつ、饅頭、地面に落としやがった!
うん?
なんか様子がおかしいぞ。
「ごろごろごろ」
なんか、のど鳴らしてないか?
「ふみゃ~」
キャンはそんな声を出すと、俺のコートを両手で握り、それに頭を擦りつけている。
「おい、キャン、どうしたんだ?」
「ごろにゃ~ん」
キャンは頭を擦りつけるのに夢中で、俺の言葉など聞いていないようだ。
なんだこれ?
「どうしたのじゃ、グレン?」
「あっ!」
ルシルの問いかけで、帝都の冒険者ギルドでプーキーから、コートを渡されたときの会話を思いだした。
『ついでに付与もしておいたから』
『おお!
凄い!
どんな付与です?』
『聞いて驚かないでよ。
なんと、ネコが寄ってくるっていう付与なのよ』
くそーっ!
もう少し早く思い出しておくんだった!
カッペーリの街でこのコート着たら、街中の猫が寄ってきて、夢の猫パラダイスが実現したんじゃないか?
あれ?
キャンがこの状態なのに、ミリネはジト目でこっちを見てるだけだな。
彼女も猫耳がついてるから、コートの影響を受けているはずだけど……。
まあいいか。ミリネからごろニャンなんてされちゃうと、理性を保っていられる自身ないし。
「グレン君、そのコートの効果かい?
キャンの世話係には、ぴったりのコートだね」
口ではそう言っているが、ラディクもやはりジト目になっている。
「坊主、街に行ったら、普通のコート買った方がいいかもしれんな」
ゴリアテのセリフも、もっともだ。
「しばらくは、キャンにごろニャンさせてやるといい」
ルシルの言葉で、ますますキャンに懐かれることになりそうだ。
「グレン、それ、懐いてるんじゃないから、誤解しないように!」
さっそくミリネから釘を刺されてしまった。
「分かってるから」
でも、ごろニャンされて、ちょっと嬉しかったのは黙っておいた。




