表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/181

第118話 港町カッペーリ(下)

 アイスクリームは、焼きたての生地を巻いたコーンの上に載っていた。

 香ばしい生地の上でアイスクリームがトロリと溶け、えも言えぬ美味しさだ。

 歩きだした俺たちが夢中でアイスを食べていると、路地の奥から悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 路地から跳びだしてきた小さなものがルシルにぶつかる。


 ベチャ


 彼女のアイスクリームは、その手から地面に落ち、見事に逆立ちを決めていた。

 ルシルの体が、ぷるぷる震えだす。

 間が悪いことに、路地から出てきた三人の獣人が、そんな彼女に話しかけてしまった。


「おい、嬢ちゃんよ。

 黙ってそいつを俺たちによこせ!」

「おい、コイツ、エルフじゃねえか?」

「ついでだ、お前も一緒に来い!」


 ルシルの震えが大きくなる。

 ローブから出てきた彼女の手には、小型魔法杖ワンドが握られていた。

 彼女が黙ってそれを振る。


 パチパチパチ


 何かが焦げるような匂いが漂ってくる。


「あ、あちいっ!」

「げっ、も、燃えてる!」

「ひいっ、だ、誰か、消してくれっ!」


 獣人の背後から煙が上がっている。

 くるくる回りだしたそいつらの、尻尾より少し上に火がついている

 三人は、ズボンに着いた火を消そうと、脱いだ上着でお互いのお尻を叩きあっているが、火はいっこうに消えそうにない。

 三人の獣人は、叫び声を上げながら、地面をごろごろ転がることになった。 


 ルシルがワンドをローブの中に仕舞うと火は消えたが、その時すでに獣人たちは、息も絶え絶えとなっていた。

 ルシルが、小さな足でそいつらの顔を踏みつけている。


「この、この、この!

 私のアイスクリームちゃんを台無しにしおって!」


 体重が軽いので、踏みつけられたダメージは入っていないようだが、精神的ダメージはひどいかもしれない。


「おい、もうその辺で勘弁してやれ」


 呆れたようなゴリアテの言葉で、やっとルシルがストンピングを止める。


「ふう、スッキリした。

 まあ、私には、もう一つアイスがあるのだが……」


 ルシルは俺が手にした食べかけのアイスを当然のように奪いとり、さも旨そうに食べ始めた。 


「それ、俺のアイス――」


「私はよい弟子を持って幸せじゃ」


 あまりのことに呆れかえっていたから、自分の足に何かが巻きついているのに気づくのが遅れてしまった。


「ひえっ!?」


 俺が悲鳴を上げたのは、足元の薄汚れたぼろくずが動いたからだ。


「た、助け、助けて……」


 ぼろくずは弱々しい言葉を上げると、ずるずると崩れおちた。

 ルシルは、アイスを自分の小さな口に無理やり詰めこむと、再びワンドを手にし、それをぼろくずに向けた。

 白い光が、薄汚れた茶色い布を包みこむ。


「うむ、なぜか術があまり効かんようじゃな……。

 グレン、こやつを抱えよ」


「えっ?

 なんで俺が?」


 どう見ても俺より力持ちのゴリアテさんが、そこにいるじゃないか。


「こういうことは、下っぱがするものと決まっておるのじゃ」


 いきなり「下っぱ」認定かよ!


「早くせんと、そやつが死ぬかもしれんぞ」


 へいへい、俺が抱えればいいんでしょ!

 臭っ!

 なんか、こいつ、トイレっぽい臭いがするぞ!


 抱えあげた茶色の布から見えた頭には、三角耳があった。

 やけに軽いそいつを抱え、足早に歩きだしたルシルを追う。

 やれやれというジェスチャーだろう、ゴリアテは両手を広げ肩をすくめていた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ