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第116話 港町カッペーリ(上)

 人気ひとけのない入り江でスキルの試し撃ちをした俺は、賢者マールの瞬間移動で、いきなり人ごみの中へ放りこまれた。

 ただの人ごみではない。ケモミミ、ケモシッポの人ごみだ。

 

「フオー!」


「これ、変な声を出すでない!」


 道を埋めつくす獣人に感極まった声が出てしまう。そんな俺を、前を歩く賢者マールが、振り返りもせず押し殺した声でたしなめた。

 獣人至上主義が国是のここフギャウン王国では、獣人でないというだけで、ひどい目に遭うこともあるそうだ。

 だから、俺はマールから渡された、茶色のフード付きローブで顔を隠している。

 ローブは獣人用のものだから、フードの上に耳が入る袋が二つ付いている。


 道行く獣人は、熊っぽいの、ネコっぽいの、イヌっぽいの様々だが、それをじっと見ている余裕がない。油断していると、意外に素早いマールの、小さな背中を見失いそうになるからだ。


 やがてマールは、薄汚れた感じの店に入った。

 明るい通りからいきなり暗い店内に入ったので、目が慣れるのに少し時間が掛かる。


「ひいっ!」


 思わずそんな声が出てしまう。

 食欲をそそる匂いが立ちこめる店内には、六つのテーブルがあり、そこに座る獣人たちがギロリと光る眼で、こちらをにらんでいる。

 

 マールは気にせず、一番奥のテーブルまで行き、椅子に座った。

 どこかのテーブルからは、何かがジュージュー焼ける音が聞こえてくる。

 こそこそ話す獣人の声は、何を言っているのか聞き取れなかった。

 

「お前はなぜそこにつっ立っておるのじゃ?

 早う座らんか」


 奥のテーブルから、ルシルのそんな声がする。なぜかその声も小声だ。

 テーブルには、『剣と盾』の四人とミリネが着いていて、すでに食事を始めていた。

 皿の料理が半分ほど無くなっている。


「グレン、あんた声が大きいんだから、気をつけるのよ」


 ミリネがやはり小声でそう言った。


「どういうこと?」


「おい、言われたばかりだろうが、小声で話せ。

 獣人は耳がいいから、普通の声で話すとやかましいと思われるんだ」


「ゴリアテ、あんたもうるさいわよ」


 ゴリアテをルシルがたしなめる。

 席に座った俺は、目の前にある皿の料理に手を出しながら、小声で言った。


「みなさん、フードを被らなくていいんですか?」


 この人たち、ミリネ以外は人間かエルフだからね。


「ああ、私たちは、このままで構わないんだ。

 君も、私たちといるときは、フードを被らなくていいよ」


 掲げたグラス越しにウインクしながら、勇者ラディクがそう言った。


「ところで、マール、グレンの能力はどうだったのかな?」


「ほっほっほ、さすがの勇者様もびっくりの能力であったよ。

 長生きはするもんだのう。

 よいものが見られた」


「じじい、早く教えなさいよ!」


「嬢ちゃん、このような場所でスキルの話はできぬであろう?

 宿に着いてからだの」


「ふん、もったいぶるんじゃないわよ!

 あんたじゃなくてグレンの能力なんだからね。

 それに私は嬢ちゃんじゃない!」


 賢者と魔女は、いつも通りだね。


「グレン君、この街、カッペーリって言うんだけど、ここに来たのは、人に会うためなんだ。

 俺とマールは、その人に会ってくるから、その間、みんなで散歩でも楽しむといいよ」


「わ、分かりました」


 マールは、スズメの涙ほど食事を食べただけで、もうお腹が膨れたのか、杖を手に立ち上がった。


「グレン坊、みなの言うことをよく聞くのだよ」


 ラディクとマールの二人が、店を出ていく。


 



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