第110話 中二病的プレゼント
ミリネがラディクの膝で猫になった朝食の後、『剣と盾』の四人は、これからの事を話しあっていた。
俺の知らない固有名詞が山ほど出てくる会話は、聞いていてもよく分からなかったが、ここコレンティン帝国を出て、獣人の国へ向かうという事だけはなんとなく伝わった。
おー!
いよいよ、ケモミミ王国へ行くのか!
モフラーの血が騒ぐなあ。
出発は明日だから、それまで暇になった。
ギルドの二階から降りないよう言われてるから、やる事がないんだよね。
簡易ベッドでゴロゴロしてると、ノックの音がして、プーキーが入ってきた。
似合わない冒険者の服を着た彼女は、革袋をさげている。
「グレン、どこか行っちゃうんだって?」
「ああ、そうみたい」
「ほとぼりが冷めたら、また帝都で店を開くから、ぜひ寄ってよね」
「うん、そうする。
だけど、俺たちが店に行ったことで、あんなことになっちゃってごめん」
魔道具屋は、『夜明けの光』が乱射した魔術の流れ弾で、ひどく壊れちゃったから。
「気にしなくていいわ。
それより、これ、奇跡的に無事だったの」
プーキーが革袋から取りだしたのは、黒いロングコートだった。
「おおっ!
例のバカ高い服だね」
「これ、あんたに上げるわ」
「ええっ!?
でも、金貨百枚もするんでしょ?」
一億円だよ、一億円!
「それがね、賢者様に言われたのよ。
あんたにこれあげたら、次に店を開く時、手伝ってくださるって」
「なるほど、そういうことか」
「なによ、それ!
これ、欲しくないの?」
「すっごく欲しいです!」
「まあ、いいわ。
ついでに付与もしておいたから」
「おお!
凄い!
どんな付与です」
「聞いて驚かないでよ。
なんと、ネコが寄ってくるっていう付与なのよ」
「……あ、そうですか。
どうせ、魅惑かなにかを付与したら、失敗してそうなったんですね」
「ど、どうしてそれを!?」
「はいはい、とにかく、コートはいただきますよ。
ありがとうございます」
「なによ、その言い方!
なんだか釈然としないわね」
「お店の成功を祈ってます」
「素敵な店になるわよー!
なんせマール様が――」
「分かりました、分かりました。
俺、ちょっと調べることがあるので、部屋から出ていってもらえます?」
「ちょっと、なによ、ひどいじゃない!
もらうものもらったら、もう私はポイなの!?」
「いや、男に捨てられたような言い方、やめてもらえます?
とにかく、俺、スキルのことで調べたいことがあるんです!」
「スキル……しょうがないわね。
明日は早いんでしょ?
会えないと思うから、今、お別れ言っておくわね。
気をつけてね。
よい風を」
「ええと、それ、挨拶ですか?」
「そうよ、元はエルフが航海の無事を祈る言葉だったらしいわよ」
「へえ、じゃあ、プーキーさんも、よい風を」
テーブルの上に黒いコートを置くと、プーキーは部屋から出ていった。
さて、じゃあ、久しぶりにスキルを確認してみますか。