第104話 魔道具屋前の攻防(中)
フードを目深にかぶっているヤツらは、顔が見えない。それが余計に不気味だった。
店の前はロータリーになっているのだが、半円を描くように、白ローブが等間隔で並んでいる。
なぜだか分からないが、通行人は一人もいなかった。
「ミリネという小娘はお前か。
黙って着いてこい。
さもなければ、その二人を黒焦げにするぞ」
一歩前に出た白ローブが、プーキーと俺を指さしそう言った。
言いかえそうと一歩前に出た途端、黒ローブをはためかせ、空からルシルが降りてきた。
「やっと姿を現しおったな。
しかし、いくら人払いの結界を張ったからといって、まっ昼間から襲ってくるとは、いい神経じゃのう」
肩幅くらいに足を開き、腕組みをして立つミリネは、なんだか落ち着いていた。
「いくら『魔女』といえ、これだけの手勢を一人で相手にできるかな?
そこにいる素人三人を守りながらでは、とうてい無理だろう。
その少女をこちらに渡せば、我らは黙って引きさがろう」
先ほどの白ローブが、単調な声でそう言った。
「あんたたち、古い情報を元にしてるね。
十年前の私なら、確かに無理だったじゃろうがな。
でも、今なら、どうかな?」
ルシルの声からは、からかうような調子が聞き取れた。
「強がりはよせっ!
早くその娘を渡すのだ!」
そう言いながら、白ローブが右手を挙げる。
「あんた、間違ってるよ。
あんたらくらい、一人でも余裕で対処できるし、残念ながら、私は一人ではないのじゃよ」
ルシルがそう言った途端、魔道具屋の向こうから大きな音が聞こえてきた。
ドーン
バーン
ゴーン
音が聞こえなくなると、魔道具屋の入り口から、金髪の男性が現われた。
男は口を袖で拭いている。
「ぺっ、ぺっ、自爆しやがった!
まったく、なんなんだよ、あいつら!」
金髪の男は、顔がススで汚れている。
冒険者にしては、やけに上等な服を着ているから、貴族かも知れない。
「ラディク君、来てくれたのね!」
あれ?
ルシル、声がいつもと違うんだけど?
なんで「のじゃ」言葉を遣わないんだろう?
「よっ、ルシル、久しぶり。
元気だった?」
どこか場違いな、金髪男とルシルのほのぼのした挨拶を聞いて、白ローブが、よろよろ後ろへ下がる。
「ま、まさか、勇者ラディク……」
そんな状況にもおかまいなく、ルシルは「ラディク」と呼ばれた男にすり寄った。
ラディクに頭を撫でられた彼女が、猫っぽい表情を浮かべる。
あれですか、これは?
いわゆる「ごろにゃ~ん」ですね。
「ええと、白いローブを着た君たちが悪さしてるのかな?」
「そうなのよ、ラディク君、こいつら、私をイジメてるの」
おいおい、ルシル!
さっきまで、「お前ら一人で相手してやる」って、強がってたじゃないか。
なんだこれ?




