第103話 魔道具屋前の攻防(上)
ミリネと俺が『プーキーの魔道具屋』に隠れて五日が過ぎた。
その間、ミリネは魔術に関する本をずっと熱心に読んでいたが、俺はやることがなくて暇だった。
店を手伝いたかったのだが、それはルシルから禁止されている。とにかく、人目につかないようにしろというのだ。
暇そうな俺を見たプーキーは、様々な魔道具を勧めてきた。
小さな骸骨の置物や、カエルのぬいぐるみ、その他、得体の知れないものがたくさんあった。
「ちょっと見て、グレン。
今日のは、自信作よ」
昼間からベッドでゴロゴロしている俺のところに、プーキーがやって来た。
「ええっ、またですかあ?」
「何よ、その態度は!
私の家に居候してるくせに!」
「へえ、この家ってルシル校長のものですよね」
「ぐぬぬ。
とにかく、これを見なさいよ!」
「なんですか?」
「なによ!
その気のない返事は!
まあいいわ。
これを見てもそんな態度がとれるかしら?」
プーキーが手渡してきたのは、服だった。
ベッドから降り、服を広げてみる。
それは漆黒のコートで、襟の所を持つと、裾が床に擦れるほど長かった。
内側には赤い布が張ってある。
「おっ!
これ、いいですねえ!」
「そうでしょ!
ほら、ここを見て!
袖を肘の上でとめられるようになってるでしょ?
あんたが前に買った、『悪魔の右腕』が隠れないようにできるでしょ」
えっ? あの包帯、そんな大層な名前だったのか。
だけどちょっと、ワクワクする名前だな。
「あれ、これ、裾のところ、破れてるわけじゃないんですね」
「そうよ!
いい所に気づいたわね!
そこにはこだわったのよ。
ほら、見て見て!
ここ、いかにも古びた感じが出てるでしょ?」
「ほんとですね!
いい味出してる!」
「いやあ、あんたなら分かってくれると思ってたわ!」
「これ、いくらです?」
「金貨百枚よ」
ええっと、日本円に直すと、一億円?
もう、笑うしかない。
「はははは!」
「はははは!
どう、安いでしょ?」
あんたが笑うな!
「あー、貴重な時間を無駄にしてしまった。
さて、昼寝の続きを――」
「ちょっと、グレン君、起きなさいよ!
今なら、こっちの『グニグニ? 愉快なスライムもどき』がもれなく付いてくるわよ!」
「へー、へー、そうですか。
あー、眠たい眠たい」
「グレン、起きて!」
ミリネが真剣な顔で、ベッドに横たわった俺を揺すっている。
「君が頼んでも、買わないったら、買わない!」
「なんのことよ!
結界が消えたの!」
「どういうこと?」
「さっきまできちんと張れていた、魔術結界が消えたの!」
「それがどうしたの?」
「敵が襲ってきてるってこと!
しかも、結界を消しちゃうなんて、高位の魔術師がいるに違いないわ!」
俺の頭にも、やっと事態の深刻さが入ってくる。
ルシルがいない今、そんなやつに襲われたらどうしようもない。
しかし、昼の日中に襲ってくるってどういうことだ?
階段を駆け降り、裏口へ向かうと、赤くなった扉が、ミシミシ音を立てている。
ルシルが防御結界を張っておくって言ってたから、それが攻撃を受けてるのだろう。
「二人とも、こっちよ!」
プーキーが指さしたのは、店の表口だった。
こうなれば、仕方ない!
大通りに飛びだした俺たち三人が見たのは、十人以上の白いローブ姿だった。




