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この暫くの後。彼女は、念願の美しい女の顏と體を手に入れる。
彼女は満ち足りていた。
水面に映る美しい顏を飽きることなく眺めては表情を楽しみ、集めた着物を羽織っては色合わせを考えて眠る。
目覚めて塒の外に出れば、その美しい顏を通すと見慣れた縄張りは鮮やかさを増し、それまで気にもとめなかった花の色や、季節で表情を変える空が美しいことを知った。
ただ暗いだけだと思っていた夜の、その空に浮かぶ月の静謐さに心を揺さぶられ、散りばめられた星々の瞬きに目を奪われる。
そして、更に欲しくなる。
文にしたためられた情景を理解した彼女は、その文をやり取りしていた人間の心情を知りたくなった。
―妾も、恋をしてみたい。
―欲しかった顏が手に入ったのだもの、きっとこの願いもいつか叶うわ。
―蜘蛛だもの、待つのは得意なの。
人間の美しさを欲し、苛立ち狂おしい程に焦がれた彼女。
だが、それも満足のいく顏と體を手に入れたことで本来の落ち着きを取り戻していた。
蜘蛛は蜘蛛らしく巣で獲物を待ち伏せる。それだけのこと。
彼女は遠くない未来に手に入るだろう恋を夢見て巣へと戻っていく。