第九話
幼い少女と年配の女性を先頭に、この島唯一の山マイヒを目指す一団があった。
ある者は泣きながら、ある者は途方に暮れながら、
ある者は蒼白になりながら 聖なる山を目指し、ひたすら走る。
大きな波が島を襲うというカリ・ヒの最期の言葉の意味を
島を荒らした罰が下ったのだと漏らす者もいた。
そのほとんどは古くからこの島に住む島民だったが、 他に数名の観光客らしい姿もあった。
年齢、目の色、肌の色、言葉は違っていても、皆 力の限り山道を登った。
山道が険しい傾斜に変わる山の中腹に差し掛かった頃、誰かがあげた
「あれを見ろ!」
という叫び声に、一同が振り向き海を見つめた。
今まで聞いたこともないような恐ろしい轟音と共に
はるか水平線の彼方から、白くうねった大きな波が
幾重にも重なって島を目がけて押し寄せてくる。
まるで大きな獣が襲い掛かるように波は容赦なく、
その口を開けて一瞬に島を飲み込んでゆく。
草も木も家も人も、すべて残らず飲み込んでゆく様を
山に向かう途中の一団は言葉にならない声をあげて見た。
「カリ・ヒ様!巫女様っ!」
「こんなことになるなんて、こんなことに」
「何故!どうしてなんだー!!」
悲鳴、怒声、皆、口々に叫びながら慟哭した。
ジョン・スレイターは呻き声を洩らしながら、その場にがっくりとひざまづいた。
ミヤナは溢れ出す涙を拭うことなく声の続く限りカリ・ヒの名を呼び続ける。
キマリは全身を震わせ、天を仰いだ。
幼い巫女ナキアは両の手を固く合わせ、ひたすら祈る。
神々の棲む楽園と呼ばれた美しい島が濁流に飲まれ、
わずかな間に無残な光景に変わっていく様は
山を目指した一団に決して癒える事のない罪悪感と悲しみの大きな爪あととして残った。
やがて静けさを取り戻した海に、はるか水平線の彼方から
寄せては返す波の音が繰り返す。
波が透明な色に戻りつつある頃には、生き残った人々はようやく傷跡と向かい合うように
日常の暮らしを営むようになった。
不変に寄せては返す波、その色は深く哀しく美しく痛々しいほどの青をたたえていた。




