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第七話

しばらく言葉もなく佇んでいたカリ・ヒは乳母ミヤナに振り向くと

「ミヤナ、精霊達の声を聞いた。もうすぐ大きな波がこの島を飲み込む」

と告げた。

「まことでございますか?」

驚くミヤナに

「おまえはナキアを連れて、他の島民たちと共に

聖なるマイヒ山に避難しなさい」

「カリ・ヒ様は行かれないのですか」

「わたくしにはこの島の巫女としての最期の勤めがある」

「最期だなんて、そんな!」

嗜めるように言うミヤナの瞳には涙が滲む。

「あなた様は、この島の巫女。大事なお方ではありませんか!

どうか最期などとおっしゃらないで」

「いいえ。わたくしが巫女であったのは今日までのこと。

これからはナキアが巫女となる」

両の手を口にあて、わなわなと震えながら

「そ、そんな! ナキアはまだ幼いのです!

それに今だ言葉が話せないではありませんか」

ミヤナが訴えた。

カリ・ヒは深く静かに息を吐くと

「精霊達がナキアを巫女に選んだのだ。

ミヤナ、おまえはナキアをこの先守っておくれ」

と告げ、再び幼いナキアの視線まで腰を下ろすと

「ナキア……、もう何も畏れることはない。 あなたの中に眠る力を咎める者はいない。

どうかわたくしの遺志を受け継いで、巫女としてこの島を守っておくれ」

ナキアの髪を撫でながら語りかけた。

声もなく涙を流す少女に、カリ・ヒは

自分の胸元で揺れていたヒスイの首飾りをそっとかけた。

「それは巫女の証の首飾り! 代々カリ・ヒ様の一族に伝わるものではありませんか」

「良い。今からはナキアが巫女であるのだ」



森の緑の梢がざわざわと騒ぎ立てる。

吹く風の匂いが変わるのをカリ・ヒは敏感に感じ取った。

「ミヤナ!もう時間がない。早くナキアとお行き!」

巫女としての誇り高い威厳を持った声でカリ・ヒが命令すると

ミヤナはその場に泣き崩れた。

だが、幼い巫女ナキアがその手を力強く引っ張る。

涙ながらに何度も後を振り返りカリ・ヒの名前を呼びながら

遠くなっていくミヤナの姿に

「どうか無事でマイヒ山にたどり着いて・・・・」

とカリ・ヒは祈った。

やがて毅然とした表情で、森をあとにすると

神の住む場所と呼ばれる砂浜に向かった。

あれほど穏やかだった海は、その深い青い色を変え

空には強い風と鈍い色の厚い雲が漂っていた。


ク・・・ル・・・・ ナ・ミ・・・・ クル・・・・


途切れることなく聞こえる精霊達の声に耳を傾けながら、

若い巫女カリ・ヒは目を閉じ祈る。


どうか無駄に多くの命が消え失せないように

どうかいつまでもこの島が楽園であるように

そのためなら、この命を捧げると両手を合わせ神に精霊に祈った。





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