第五話
美しい白い砂を汚すかのように、まだくすぶり続ける葉巻を拾い上げ
長老キマリは苦々しい表情で首を振った。
深いしわが刻まれた面差しに暗い陰が差す。
キマリは、今さらながら自分のしたことに後悔の念が拭えなかった。
島の巫女カリ・ヒを説き伏せ、リゾート開発に同意させたのは他でもない自分だった。
齢80歳になるキマリにとって、古くからの風習を守り
精霊とともにある島の暮らしは、なんの不満もないものだった。
しかし若い島民たちはそうはいかない。
時代の流れとともに否応なしに、この島にも新しい文化が持ち込まれる。
新しい文化を知れば、それだけ欲深く多くの物を望む者が現れるものだ。
毎日のように島民に開発によって受けることになるだろう恩恵を
まるで神の教えを説くように呼びかける異国の人間達に、最初は懐疑的だった島民たちも
しまいにはすっかり洗脳されたようだった。
島さえ開発されれば、島の巫女さえ首を縦に振れば楽な暮らしが手に入るのだと
信じて疑わないようになってしまった。
そして何よりも島が開発されれば、医者のいないこの島にも医療施設が整う。
ささいな病や怪我で命を落とす者は確実に減るのだ。
精霊達に感謝し、自然の恵みに感謝する生活に不満を抱く者も、
今よりも便利で楽な生活を望む者も日に日に増えていく。
つくづくと人間は欲深く愚かな存在なのだとキマリは感じざるを得なかった。
いくら最長老とは言え、とうとうキマリにも島民たちを抑えることは困難になってきたのだ。
覚悟を決めキマリは、医療設備があれば救える命もあるのだと若い巫女に訴えた。
そのためには少しの犠牲には目をつぶらなければならないと巫女を諭した。
最初は渋っていた若い巫女も、最後には島の最長老のキマリの意見を受け入れた。
自分では島の将来を思ってのことだった。
しかし、多くの自然を失いつつある今となっては
果たしてそれが正しいことだったのか……
海から吹く風に乗り、底知れない畏れと不安がキマリの胸に去来する。
「島の巫女よ。あなたはわしを恨んでおられるか…… 」




