第四話
凪いだ海の上で小船はゆらゆらと揺れる。
いつもと変わらない海と空。
だが船上のモロの心は穏やかではなかった。
この島に住む漁師としては犯してはならない禁を破ってしまったのだ。
島の巫女からの命令で、今日は海で漁をしてはいけない日なのだ。
それは古来から島の漁師に伝わる掟でもあった。
しかし相棒のヤムは漁に出ることを止めなかった。
「こんなにいい天気の日に漁に出ないなんてどうかしてるぜ」
「だけどヤム、掟だろ?」
「はん!古臭い掟が何だってんだ。 俺ら漁師は魚を獲るのが仕事なんだぜ」
どうなだめても海に出ることに執着するヤムに 引きずられる形で漁に出たものの
モロの心には暗雲が立ち込め、悪い予感がぬぐいきれなかった。
幼馴染のヤムが漁に出ることに執着する理由はモロにも分っている。
モロもヤムもまだ年端のいかない少年だが、彼らが働かなければ
満足に家族が食べていけないほど二人の家庭は貧しいのだ。
海さえ荒れていなければ漁に出て、たくさんの魚を獲ることこそが
彼らに与えられた生きる術なのだった。
だが信心深いモロにとって巫女の命令を破ったということは、
神の御心に背いたと同じ大きな罪なのだ。
モロの胸に立ち込めた黒い不安の霧はいつまでも晴れることはない。
ところがモロの気持ちとは裏腹に、魚は面白いように釣れる。
網を打てばたちどころに大漁となり
相棒のヤムは笑いが止まらないようだ。
「ほら見ろ!こんなに魚が獲れるなんて今日はついてる」
そう言ってから
「他の奴らは馬鹿だ。古い掟を守って漁に出ないなんてよ」
と悪態をついた。
「でも……。ヤム、俺は何だか怖いよ」
弱気なモロに
「怖い? 何が怖いってんだ。禁を破った罰が 下るかもしれないって思ってんのか」
にやにやと笑いながら意地悪くヤムが聞いた。
言葉もなく、小さく頷くモロに呆れ顔で
「馬鹿な奴だな。罰なんか下るもんか」
強気に吐き捨てたヤムの声をかき消すように、ザンと白い飛沫を上げ波の音が鳴り響いた。




