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第四章:あなたが一番、輝いてる時を私は知ってるよ?

 今日は夏休みのある日だった。わざわざ千葉にまで来たのには理由がある。彼のサッカーサークルの大会があるからだ。日焼け止めや水分を確保して、会場に向かった。ただし、呼ばれていったわけではないの、観客の端の方で彼や彼の彼女に見つからない様に、サングラスもつけてひっそりと彼の様子を見ることにした。

 前、授業内での簡単な自己紹介のときに中高でサッカーをしていたとだけあって、一年生にしてスターティングメンバーで、彼はミッドフィルダーとして、初めからピッチに立っていた。私が美術サークルの活動とかまけて、彼の練習風景を見ていたからわかるのだけど、彼は素人目で見てもとてもうまかった。

 試合が始まってもその彼の足さばきは光る。巧みにボールを操って、ゴールに叩き込むその様子はかっこよくて夢中になった。だけど不快な歓声があった。彼の彼女の声だった。空気の読めない歓声は多少周りの人をもイライラさせたようで、彼女を中心に少し空間ができていた。やっぱり、あの女は低能……。


 サッカーの試合中の彼は勉強をしている時よりも自転車に乗っている時よりも仲間の会話を達観している時よりも、どんな時よりもキラキラしていて輝いてる。ドリブルやスライディング、シュートすべてを美しくかっこよくこなす彼に惹かれるのはきっと私だけじゃないのは悲しくも嬉しくもあった。汚れがついてしまった彼のユニフォームを洗ってあげたい……彼の汗ばんだ背中をながしてあげたい……。輝く彼に妄想を馳せながら、時間をすぎていくのを感じた。


 試合が終わって、低能女さんはスポーツドリンクとタオルをもって、ベンチのほうに走って行った。正直、言って羨ましく思う。私がもう少し能動的だったらなどという後悔が私を襲う。これに関しては「あの女は予行練習」みたいな自分に都合のいい解釈はできない。ただただ胸に刺さる自分の思いが痛々しく、なぜか心地よいような気もする。ただずきずき痛むのは事実で私を鬱にさせる。ただ私と彼は運命の相手に違いないのだから、という気持ちで自己を保つので精一杯の自分へのフォローである。いつかきっと彼は私に癒しを求める。そんな自分の気持ちを胸に、彼が仲間に胴上げされたり、彼女におつかれのキスをさせるのを、ただ指をくわえてみているだけだった。


 家に帰って悶々としながら、彼らの様子を頭に浮かべる。あの馬鹿女と時間を共にすごし、一緒に笑って一緒に泣いたり喧嘩したり……できることなら一緒の部屋で同じ時間を共有したい、くだらない話で笑ったり、時に喧嘩なんかしたりして、でもやっぱり仲が良くてどんなに疎遠なりかけてもまた戻る。私の中の運命の彼という気持ちが最近揺らぎ始めてしまっている。それがいいことなのか悪いことなのかわからないけど、こんなにも心がざわめくことが事実だ。

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