第二章:あなたは私に運命を感じてくれましたか?
授業が始まって、彼と同じ学校でるということは単科である私の学校では同じクラスということを示す。100人近い生徒数を1クラスとする感覚は初めてで少し新鮮ではあったが、それ以上に彼と同じクラスという状況に対して驚きに近い喜びがあった。
私にとってバラ色のキャンパスライフが始まると私は確信していたが……、世界とは小説や映画とは違った。
別に彼とは番号は近くなく、友達も違う。遠目から見る彼の様子にあーだこーだ独り言をつぶやくことはできても、彼に意見を言うことができない。彼に思いをはせることができても、彼に触れることはできない。
授業中簡単に抜けれるように、ドアの近くに席を陣取るイケイケグループの中にいる彼に、思い切って挨拶する勇気もなくて、楽し気に仲間と話す彼の横を無言で、通り過ぎて真面目女子が集まる前方の席に座る。ここが私の居場所だから、仕方がないのだが彼を見るためには振り返らなくてはならない。グループ内で敢えて前に座って、後ろの友達と話すふりをしてずっと彼に目を向けた。
彼は私が学校につくのが八時半ごろ。その時にはかれはいない。彼はいつも五分前にやってくるから、私はいつも授業の始まる前にトイレに行く。トイレに行くために上る階段についている窓から、彼が駐輪場に自転車をとめて、スマートフォンをいじりながら校舎にはいって行く姿が見える。少し時間をつぶしてからゆっくり階段を下がって教室に戻れば、彼が着席した直後で彼は仲間に挨拶しながら宿題や雑談をしている。それを聞きながら、元の席につくのが私の朝の日課である。
彼は下宿している身だから、昼ご飯は弁当ではない。学校が始まったころは近くの弁当屋さんやコンビニ、学校の食堂でご飯を済ませていて、そのことはいつも火曜日が食堂に行く日だったので、母親に弁当を作らないでって言って、よく食堂に行っていた。最近では同じように下宿の友達だったり、弁当を作ってもらえない友達と一緒に、近くのチェーンではないレストランに行っているようだ。最近の私に残ったのは彼が昼ごはんに行く姿を見ることと、火曜日に対しておいしくない食堂のご飯を食べる習慣だけ残ってしまった。
友達と一緒に彼がいない食堂でご飯を食べるのは楽しくはあったが、別にお弁当でも変わらないのだから、やっぱりやるせない気持ちは消えることはない。
普通の授業では彼のグループは割とうるさいし、授業中もしばしば注意されたりする。でも、彼はどこか達観していて、寂しい雰囲気がしている。そんな彼のどこか不安定な小さな闇が大好きだった。周りに合わせて、とりあえず笑ってみる彼の不穏な笑顔が大好きだった。彼を誰よりも見ているのだから私だけが知っている彼がいる。
サークルは彼はサッカーサークルに入った。私は美術サークルに入った。美術部は活動はフリーで、特にノルマもない。ただ友達が入ったから私もならっただけだ。ただ、美術サークルの良さはその自由さである。どこで絵をかいても美術の活動とすることができる。私は美術サークルを言い訳に、彼の練習するグラウンドのすぐそばで鉛筆画を描いている。傍目に見える爽やかな汗をかく彼の姿が好きになった。サッカーのマネージャーが羨ましかった。でも、私がなりたいのはマネージャーのような便利な女じゃない。あくまでも彼女なのだから、マネージャーを馬鹿にしながら見ることができた。