第一章:あなたは私との出会いを覚えていますか?
桜が満開な季節。学校のそばの桜並木、まだ学校が始まる前で気分転換に自分がこれから通う学校を見に来た時だった。ちょうど大学に近い桜から12番目の少し貧弱な桜の下で私はあなたに出会って、話しかけられた。
「落としましたよ、ハンカチ」
そう言ったあなたはその桜の前にあるアパートで引っ越しをしている途中だった。あなたのあまりにも優しい眼差しに目がくらみそうになった。私はキョドって、お礼もまともに言えずに私は小さな会釈でそこを離れてしまった。
ああ、名前を聞いておけばよかった。というか、お礼も言えなかった。連絡先は……?。一度きりと思える出会いをどうにもできない自分に寂しさを感じた。
数週間が経って、学校が始まった。近いがゆえに気になる彼の存在と彼の家。毎日、朝8時半ごろと夕方の二度、学校と駅の往復のために彼の家の前を通る。それは私にとっては小さくとも輝かしい幸せだった
というのが私の予想だった。そんな勝手な妄想を描いていた私は、それを裏切られることになった。
入学式当日に、駅から学校へ歩いているとその桜の前を通った。桜の位置は覚えていても、彼の部屋がどこなのかはわからず、なんとなく彼のアパートに視線を送ることしかできなかった。トボトボと彼のアパートをすぎて、何本かの桜を通り過ぎたころ、後ろから チリンチリン
自転車がやってきた。後ろから寄ってくる自転車をよけるために、軽く振り返るとそこにはまたあの優しい眼差しがあった。あまりにもドキドキして、体が固まってしまった。
振り返った私の横を自転車でスーッと去っていく。スーツを着た彼の様子は一瞬であるはずだったのに、その憧憬は何度も思い出せる気がした。横を過ぎた彼を追いかけるために、すぐに前を向きなおして彼の自転車を目で追った。すると、彼の自転車は学校へ続く道で曲がり見えなくなった。もしかしてと思い、私は着慣れないスーツで走った。
スーツが慣れないだけでなく、ヒールでのダッシュに私の体はヒィヒィ言っていたが、大学になんとかついて駐輪場に目を運ぶと彼がいた。少し離れた場所から様子をうかがっていると、彼は自転車のかごからバックを取り出した。さらにそのバックから書類を出した。その種類は自分が持っている入学式に出す書類と同じだった。あまりにも嬉しい自分をなぜか諫める自分が心にいて、「ぬか喜びは良くない。もっと確実なの待つんだ」と自分の中の自分がささやいた。ただ彼と同じように入学式が開かれる講堂にはいって行き、順番で座るがゆえに私のとなりには彼が座った。
正直、このとき息ができているのかわからなかった。どうしようかなっていう思考も回らない。そんな私を察したのかそうでないのかわからないが彼は言った。
「はじめまして! これからよろしくね!」
私は幸福すぎる自分に明るい未来があると確信してしまった。