その4
私達の住む王都リダヤとキマリアの街道を通って精霊の滝にやって来た。
ここで一番犠牲者が出てるから、取り合えず滝の周囲を色々見て回ろう。
...うん、やっぱ言ってた通りこの辺りにトロールの棲み家になりそうな洞窟はないね。
トロールは光が苦手だから明るいうちはずっと棲み家に隠れて出てこないんだよ。昼間は眠って夜行動する夜行性なんだ。
だから明るい今のうちに見付ければ倒すのが楽なんだけど、そう簡単に見付かる場所を棲み家にしてるわけないし探すのも大変なんだよ。
[索敵]や[狩猟]のスキルがあれば見付かる確率もグッと上がるんだけどね。
あっ、セーラは索敵スキルを持ってて、リリアーナは両方持ってるよ。
「一旦分かれて遠くも調べてみよう。それでトロールがいそうな場所を見付けたらみんなで中を探索、それを繰り返して暗くなっても見付からなかったらここに集合して今日はここで夜営をして出てくるのを待とう」
「そうだね。そうしよう」
私の提案にみんなが頷く。さて解散...と、思ったけど誰もその場を動かない。
「えと... 分かれて探すんじゃないの?」と、当たり前な疑問を私が口にすれば...
「そんなまさか、美香を一人にできるわけないでしょ!」
「美香は私達が守ります!」
「まぁ、そうゆうわけだから」
勢いよく返事をするミリアに真剣な顔のリリアーナ、そして苦笑いのセーラ。
なぜかみんなで行動することになってしまった。...どう考えても効率悪いと思うんだけど...
「えっと、一人で大丈夫だよ。洞窟見付けても中に入ったりしないですぐにみんなを呼ぶから」
「「「それだけはだめ(です)!!」」」
怒られてしまった。
確かに私の戦闘力ってみんなより低いから心配するのも当然なんだけど。
この世界には剣術Lv1とかみたいなスキルのLvはあるんだけど、自分自身のLvはないみたいなんだ。
あるのは剣術や魔法のように自分で発動するアクティブスキル、危機察知のように覚えればずっと発動しているパッシブスキル、料理のように何かを造り出すマルチスキルの3つ。
だから自分の強さを示す為に冒険者ギルドで教官に見てもらってランクをつけてもらうんだけど、それが私はみんなよりずっと低いんだ。
そのギルドの強さを示すランクなんだけど...
◀英雄レベル [A◀B◀C◀D◀E◀F] 成り立て▶
と、6段階あり(実はSランクまであるって噂があるけど)私のランクはDで、これもみんなが協力してくれたから取れただけなんだ。私だけだったらEランクだと思う。
リリアーナはランクA、セーラはランクB+、ミリアはランクBなんだ。
+がついてるのは上のランクまでもうすぐってこと。だからセーラはAに近いBってことね。
...うん、私だけ大分弱いね。私が一人でトロールに会ったら確実に殺されるよ。だってトロールのランクはBだから。Bランクの冒険者が複数人で倒すモンスターなんだよ。あっ、モンスターのランクは倒せる冒険者パーティーのランクと同じなんだ。
ランクAのリリアーナなら一人で倒せるだろうけど、普通はランクBの冒険者が複数人で倒すからセーラとミリアなら何人か必要なくらいだね。
セーラなら何とか一人で倒せるかも知れないけど、大怪我か最悪死ぬかも知れないし神官のミリアが一人で戦うのは絶対無理だよ。
でもトロールって人に化けるから気を付けないと強い冒険者でも殺されちゃうことがあるんだって。
今回の犠牲者も大半が変身したトロールに騙されたからだし、要注意だね。
それから暫くどこのアホパーティーだって感じの集団で探し回ったけどそれらしい場所は見付からず。
少し遅めのお昼ご飯をとることにした。
色とりどりの花や山々を見回せる小高い丘にシートを敷きみんなでその上に座ると、マジック鞄から朝作ったサンドイッチや氷魔石の力でずっと冷たいお茶が飲める水筒を取り出し並べる。
元々こういったピクニック風な食事の仕方はしていなかったようで、この食べ方が気に入ったらしい3人はずっとうきうきしている。
その様子を見るだけでほっこりするね。
「ん~~! フワフワのパンが美味しい♪ 茹でた卵を潰してマヨネーズってのを合わせた卵サンドはやっぱり最高ね! 細かくした魚とマヨネーズのツナサンドも美味しい!」
「いつも私の分だけ小さめに作って下さってありがとうございます。美香の愛情が詰まっていてとても美味しいです」
「冷めても美味しい食事なんてなかなかないからね。美香が作ったものは温めなくても食べれて、その上美味しいのだから有り難いよ」
マヨネーズに似たものはこの世界にもあったけど一般的ではないんだって。ここでの味付けは殆どが塩、コショウ、砂糖など。
長く生きてるリリアーナや貴族のセーラは似た味のものを食べたことがあったらしいけど、ミリアはすごく驚いてたよ。
魚もツナみたいに細かくしたものは一般的ではないんだ。挽き肉もだけど。
普通はそのままか切って焼くだけらしいよ。庶民料理は手間暇をかけないんだって。
リリアーナは少食だから小さめに切ったサンドイッチを食べてるよ。そのことをいつも感謝してくれるんだ。
後セーラの言う通りここの世界だと食事っていちいち食べる度に作らなきゃいけないらしいよ。
おにぎりやサンドイッチみたいな手軽に食べられるものってないんだって。それに冷めた料理を食べる習慣もないみたいだし。サンドイッチも最初ちょっと抵抗あったみたいだけど手軽さと味で受け入れられた。
忙しいときは保存食の乾パンや干し肉をそのまま食べるんだって。固いししょっぱいし大変そう...
だからニコニコ嬉しそうにサンドイッチを頬張る3人を見てるとほっこりするし、美味しいって言ってもらえて嬉しい。
「はい美香、あ~ん」
「え? ...ん」
「ああ! ずるい!! 私のも食べて美香!」
お腹いっぱいになったらしいリリアーナが、一口サイズに千切ったハムサンドを私の口元に寄せてくる。
それに苦笑いしつつ頬張るとミリアも慌ててツナサンドを手に取り差し出してきた。
苦笑いしつつそれも一口頬張ると恍惚とした表情で私を見るミリア。
またすぐリリアーナは千切ったハムサンドを私の口元にもってきたのでそれを食べるとまたミリアがと繰り返す。
時々うっかりを装いつつわざとその細く白い指で私の唇や舌に触れ妖艶に微笑むリリアーナ。
興奮しているのか真っ白な頬や長い耳が上気して赤く染まり、口角の上がった唇は鮮やかな赤に色付いて何とも色っぽい...
そして私がかじった所を嬉々として食べているミリアはギラギラした目でサンドイッチを見詰めていて...変態っぽくてちょっと恐い...
そんな私達の様子をカツサンドを頬張りながら羨ましそうに見るセーラに乾いた笑い声が出た。
「さて、お腹もいっぱいになったしトロール探しを再開しようか」
「そうだね。これから私は一人で探してみるから、美香のことをよろしくね」
「えぇ、任せなさい」
「分かりました。セーラも気を付けて」
食事も終わり、作業の再開を提案するとセーラと分かれて探すことになった。
リリアーナとミリアは私から離れる気はないみたいだ。リリアーナの方がセーラより強いのに...
そうして暫く辺りを探し回ってそれらしい洞窟を見付けては調べてみて、それでもトロールは見付からず。
それっぽいのがあっても他の害のないモンスターの巣穴だったり。
そうして日が傾き始めた頃、セーラが見付けた洞窟で、私達はトロールを見付けたのだった。
山と山の間にあった洞窟の入り口は森の中の木々に囲まれた少し下がった地形にあったので見付けるのに時間が掛かったのだろう。
2m程の高さと1m程の横幅があるその洞窟を、ほんの少し周囲が見える程度に抑えた光魔法で照した。
リリアーナは暗視のスキルを持っているから周りが見えて羨ましいな。
足元に気を付けながら歩いてると段々と鼻につく異臭が酷くなって行く。
そうして辿り着いた洞窟の一番奥でトロールが眠っていたが、ここからは毛むくじゃらの背中と大きな耳が見えるだけだ。
因みにトロールは鼻と耳が大きい醜い顔をした巨人だ。
「眠ってますね」
「そうね、そーっと近付いて一気に殺ろう」
3mはある巨体を見れば分かると思うがトロールはなかなかにタフだ。その上素早い。
起きられたら面倒なので私達は音を立てないようにゆっくりと近付いて行き、確実に殺せる場所に移動した。
「今だ!!」
「フゴッ!?」
私の掛け声でみんな同時に攻撃した。
首をセーラが斬り落とし心臓をリリアーナが刺し私とミリアは腹を攻撃して、反撃する暇も与えずあっという間にトロールを倒した。
目が覚めた瞬間に命を失ったトロールはあまり苦しまずにすんだだろう。
「ライト」
「...これは酷い」
トロールが死んだことで安心して使えるようになった魔法をミリアが唱え周囲を照すと、辺りには幾つもの亡骸があった。
まだ新しい商人らしき遺体や山賊だろう腐乱した遺体もあったが、まだここにトロールが来て日が浅いので白骨化したものはなかった。
「さ、ギルドに帰って報告しよう」
「...そうね」
私達は町へと帰り次第この場所をギルドに報告することになるだろう。朝方には調査員が派遣され身元の分かる者は家族の元に帰される。
武器や道具などもこの場所にあるが、その所有権は討伐者である私達のものになる。が、持ち主が不明な物や山賊の持ち物以外は遺族に返そうと思う。