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その3



町の中でも中心に冒険者ギルドはあるのだが、その外観は町によって大分違う。

私達が住んでいるここはソルダース王国の王都リダヤって言うんだけど、セーラが聖騎士だから王都からはあまり離れられないんだよね。だからここを拠点にしてる。

それでここソルダース王国の冒険者ギルドなんだけど、茶色のレンガの壁に焦げ茶色の屋根が歴史を感じさせていい味出してると思う。窓が少ないしシンプルな外観から武骨な図書館っぽいかな?

この国の家は全て赤や茶色、そしてレンガで造るようにって決まってて統一された町並みが綺麗なんだよ。

だけど、似たような建物が多いから場所を覚えるのは大変かも。友達の家とかあったら迷子確定かもね、よかった、みんな一緒に住んでて。

頼りになるセーラやリリアーナがいるから道に迷ったことってないけど。

セーラはここが地元だし騎士をしているからか地理には詳しいんだ。リリアーナはエルフという長命種で狩人をしてるから道を覚えるのは得意なんだって。


大きなレンガ造りの冒険者ギルドの見た目はさっきも言ったけど図書館とかみたいでね、3階建てで地下には倉庫があるんだよ。

1階は依頼の受け付けや酒場、2階にはモンスターや魔法についての本が。そして3階には貴重なモンスター素材があるらしいよ。3階は立ち入り禁止だから入ったことないけど。

地下ではモンスターの解体場と腐りやすい素材を保存する大きな冷蔵庫があるんだよ。

でも殆どの人は自分で解体しちゃうみたいだね、お金が掛かるから。

私も一応解体はできるけどみんなの方が上手だよ。




「おっ、ハーレムパーティーだ」

「いいよな~、あんな美人だらけのパーティーに入れれば毎日楽しいだろうな。...でもなんであんなガキもいるんだ? あれがいなきゃ美女パーティーだって言えるのに」

「あれも一応は女みたいだぜ」

「ギャハハ、例え女でもガキじゃ意味ねーだろ! その上あんなブスじゃな」

「言えてらぁ!」


「ギャハハハ」と下品な笑い声がギルド内に響いている。

中に入った途端こういった嘲笑や好奇の視線を向けられるのはまぁ、いつものことだ。

リリアーナとセーラは婚期を過ぎてるけど美人だし、年齢に拘らない人やエロ目線の男も結構いるんだよね。そもそも20歳で行き遅れって貴族の話しだし。

それにミリアはまだ16歳という若さで神官だよ、その上可愛いくて胸も大きいし。

うんうん、私が場違いなのは分かるよ? でもさ、誰とパーティーを組もうがそんなの個人の自由じゃん、そこは文句言われる筋合いないよ。

ガキとブスはまぁ...彼女達と比べられたら仕方ないよ。東洋顔だし胸ないし。それはもう好きなだけ言えばいいよ。もう慣れた。


ガヤガヤ騒いでいた男達だがすぐに静かになった。

...うん、3人共凄い目で睨んでるね、凄く怖いよ。いや、それでもみんな美人なんだけどね。うん、ありがとう。

そうして微妙な空気の中私達は壁際に置かれた掲示板を見る。

よくゲームや小説にあるのと一緒で、ここの掲示板には様々な要望の書かれた紙が貼られているのだ。


「ん~~、どの依頼がいいかしら? ...採取クエが多いみたいね」

「最近は暖かくなってきたからね、冬の間手に入ず不足していた素材を薬師や錬金術師が欲しがっているんだろう。

ん、トロールがキマリアの街道の山に住み着いたみたいだね。商人や冒険者を襲ってるらしい。

みんなが安心できるように倒しておいた方がいいかもね、どうする美香?」

「そうだね、退治した方がいいかも」


セーラに聞かれ頷き、掲示板に貼られた依頼書を取って受け付けに行く。

...別に私がでしゃばって依頼を受けようとしてるんじゃないよ! なぜかみんな私に依頼を決めさせてくるんだよ。リーダーはセーラなのに...


「おはよう御座います美香様」

「おはようナタリア。この依頼を受けたいんだけど」


ここの受け付け嬢は3人いるんだけど、その中でも最年長のナタリアは30代後半くらいの素敵な女性なんだ。

私はナタリアの優しい雰囲気が好きでよくナタリアの所に並ぶんだけど、今いるもう一人の受け付け嬢のマリアは16歳の可愛いらしいお嬢さんで毎日すごい行列ができるんだ。

今も朝早い方だからそれほど混んでないけど向こうには列ができて、こっちは私達だけだ。

それで今はいないけど3人目の受け付け嬢はなんと男性! リックって言うんだけど彼は人が多くなる夕方になると受け付けを一ヶ所増やして働いてるよ。


「トロール討伐ですね、最近キマリアの街道にある山にトロールが住み着いたようです。精霊の滝がある辺りで休憩中に襲われた方が多いらしいですよ。

そこで野宿していた冒険者が朝になって異変に気付き、その近くを捜索したそうですが巣穴にできそうな場所はなかったそうですよ。

トロールは単独で活動するので集団で襲ってくることはありませんが仲間から離れた人間を密かに殺し、その人に化けて一人ずつ離れた場所に誘き出して殺していきますから、朝になったらパーティーの人数が減っていることがありますから十分気を付けて下さいね」

「はい、気を付けます!」


ナタリアの言葉に気を引き締める。セーラ達なら心配いらないだろうけど私は弱いんだし油断大敵だ。

そんなことを考えていると苦笑しながらナタリアが言う。


「トロールのお陰で山賊がいなくなったと喜んでる人もいるみたいですけど、正直喜べませんよね。人が殺されてるわけですし」

「確かに山賊の狙いは金品だからね、荷物やお金を渡せば命だけは助けてくれるかも知れないけど。それは所詮山賊の気分次第だからね、殺されることもあれば捕まって売られる場合もあるから当てにはできないよ」

「もー! グダグダ言ってないでどっちもぶち殺せばいいのよ!」


ナタリアとセーラの会話にミリアが苛立った。

殺る気まんまんのミリアがちょっと怖いけど、少しでも早く退治した方がいいもんね。

では出発しますか。





「ミリアちゃん! 今日も可愛いね、これから俺とデートしない?」

「げぇっ!」


冒険者ギルドから出ようとした所で扉が開いて見知った男が現れた。

馴れ馴れしいこの男は『灼熱のギル』というパーティーのリーダーで、ギルバートという赤髪の双剣士だ。

短髪やおでこにある傷がワイルドなイケメンで、冒険者としてもAランクと強いので非常にモテる。

...が、悲しいかな、巨乳女性が大好きな男なのでミリアは彼が大嫌いだ。顔を見ただけで声に出して嫌がるくらい。

そんなミリアの反応に慣れているギルバートは全く気にした様子もなく、ニコニコしながらも...ミリアの胸を凝視している。


...女の私から見ても正直キモいなぁ。


下心を全く隠さないのはイケメン故か、なぜか「やだも~ギルバートったらエッチ~」なんて言って女性達は喜んでるのだから不思議だね。

そんな彼をミリアは無視して進むから手を繋がれた私も、みんなも歩いて行く。

完璧無視なミリアの横に並んで付いて来る彼は、終始ニコニコしながらずっと話し掛けている。

「可愛いね~」とか「そのつれない態度が堪んない」とかずっと話し掛けてるんだよ? 私なら絶対心折れるね、ある意味すごいと思う。

巨乳にしか興味ないから私達には一言も声を掛けないのもすごいよね。

普通はね、私に声を掛けない人でもリリアーナやセーラには声を掛けるのに。なんて言うか...彼は徹底してるね。

まぁ、もし声を掛けられても人見知りのリリアーナは答えないと思うけど。...答えられないからね。

話し掛けられても普通に相手をするのは私とセーラくらいかな。


「ごめんね、うちのギルバートが迷惑掛けて」

「ははは...ミリアには可哀想だけどこっちに害はないから構わないよ」


ギルバートの仲間のダンが申し訳なさそうにセーラに声を掛けると、セーラは苦笑いしながら答えた。他のメンバーも私達に頭を下げ謝罪してくれる。

ダンは茶髪で気の弱そうな35歳くらいの男性で、ギルテンはムキムキマッチョなおっさん重戦士。ローギル兄弟は20代後半の弓使いの兄マジと20代前半の魔法使いの弟カルで二人共何でもできる万能タイプだ。

パーティー名の『灼熱のギル』はギルバートが「パーティー名だが俺達全員の名前にギルがついてるからギルはつけよう! んで、俺の髪が赤いから灼熱のギル! かっちょいぃ!!」って酔っぱらいながら勝手に決めたそうだ。

...うん、悲しいことにダンの名前にはギルはつかないらしいよ、「ダン」って名前だけで名字がないって本人が言ってたから。

他の全員は名前なり名字なりにギルがついてるのに。

...うん、ギルバートの尻拭いしたり何かと苦労してる彼とは気が合いそうだ。

それに彼らはギルバートとは違って私にも普通に接してくれるし、色々面倒見てくれてるよ。

まぁそれも彼らがリリアーナやセーラのことが気になるからだけどね。ダンはセーラのことが好きでローギル兄弟はリリアーナのことが好きみたい。

うん、ローギル兄弟が頑張ってリリアーナに声を掛けてるけど、リリアーナは私の後ろに隠れちゃった。私の方が背が低いから見えてるけど。

ギルテンはなんか私を子供だと思ってるのか一番親切にしてくれるおっさんだよ。

うん、今もほら飴くれた。...子供じゃないんだけどね私。

そんな彼には残念ながら奥さんとお子さんがいる。うん、この飴娘さんのじゃない? いいの貰って?




こうして私達と『灼熱のギル』の大人数で町を歩いているといつも以上に目立っちゃうね。

男女の色めき立った視線が送られてくるのはいつものことだけど、女性の視線がいつも以上に多い。

...嫉妬の視線は相変わらず私に殺到してるけど。

一応いいこととしては下心のある男達が寄ってこれないってのがあるけど、今も羨ましそうに見てるし。

でも、普通に声を掛けてくる人もいるんだよ。


「セーラ様! この間はありがとう御座いました。セーラ様のお陰で今もこうしてお店で働けるんです」

「おぉセーラちゃん、いつも世話になってるからこれでも持ってきなさい」

「セーラさん、息子が産まれたんで見に来て下さい!」


聖騎士として市民を守る仕事をしてるからか、セーラに声を掛けてくる人って多いんだ。

セーラが活躍しまくってるからか他の聖騎士への文句を言う人が多くなっちゃってるんだよね。

普通の聖騎士は貴族が多いからかちょっと傲慢で市民を見下してる感じの人達が多いんだ。

今まではそれでもモンスターを倒してもらってるからみんなありがとうって素直に感謝してたのが、凄く真面目で誠実で、その上イケメンのセーラが現れたから他の聖騎士が劣って見えてしまってるというか...まぁ、そんな感じで。

元々聖騎士に憧れてたセーラは仲間に厳しかったらしいし...それでもみんなセーラが侯爵ということから文句を言うこともできず煙たがられてたらしいんだ。

それが最近市民からのセーラ讚美と他の聖騎士への悪口もあって上司からも色々言われるようになったんだって。

セーラが聖騎士を止めようとしてる原因の一つがこれなんだよね。



...と、色々と回想してる間に『灼熱のギル』のみなさんはいなくなってるね。

ギルバートはしつこいけど他の巨乳女性から声を掛けられるとすぐそっちに行っちゃうから。

清々しい程にクズだね。


門番さんに声を掛けて私達は町の外に出た。



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