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僕らの箱庭

恋人の赤い指先

作者: 東亭和子

 細くて綺麗な指が見えた。

 その指先は真っ赤に染まっている。

 それはとても魅力的に映った。

 あの指になら何をされても構わない、そう思えた。


「何を見ているの?」

 その声にハッと我に返る。

 じっと見つめる視線が痛い。

 何でもない、と答えて視線をそらす。

 そう、と言いながらも彼女は納得していないようだった。

「…何か悩みでもあるの?進路のこととか?」

 赤い指が軽やかにパソコンの上を動いてゆく。

 年上の彼女はOLで、年下の自分は高校生。

 まだまだ子供だ。

 バイトをしても稼げる金額なんてたかが知れている。

 ブランド物など買う事は出来ない。

 不甲斐ない恋人だ。

 思わずため息がもれる。

 そして彼女の指が止まる。


「ほら、やっぱり何か悩んでいる。

 一体何を悩んでいるの?」

 お姉さんに言ってごらん、と彼女はその赤い指で頬をつまむ。

 痛いよ、と抵抗しても笑って放してくれない。

 絶対に言えない。

 どんなに甘い言葉をささやかれても、こればかりは言えない。

 自分のプライドが許さないからだ。

「仕事はいいの?

 終わらないんでしょ?

 邪魔しないから、仕事してなよ」

 彼女はため息をついてまたパソコンに向かう。

 赤い指が軽やかに動くその姿をじっと見ていた。


 友達に相談しようかと思ったが、年上と付き合っているとバレるのが嫌だった。

 だから一人で悩むことになる。

 自然とため息が増えた。

「ねぇ、何を悩んでいるの?」

 恋人が心配そうな顔をしている。

「どうして?」

 とぼけた振りをしてみる。

 彼女は怒るだろか?

「…ため息が増えているのよ。

 ねぇ、私には言えないこと?」

 悲しそうな恋人の顔を見ていると意地張っている自分がバカみたいに思えた。

「分かった。

 言うから、笑わないでくれよ?」

 自分のプライドよりも大切なものがある。

 彼女を失うわけにはいかない。

 だから思い切って告げよう。


「俺って子供だろう?

 だから不満はないのかなって。

 金もないし、地位もない、本当に何も持ってない。

 こんなこと考えるなんて本当に子供だよ」

 自分で言っていて悲しくなる。

 でも真実だから仕方ない。

「そうね、でもお金や地位をちらつかせて偉ぶる男よりも、純粋に気持ちだけで好きと言ってくれる方が私は好きだわ。

 逆に私の方が心配よ。

 若くて可愛い子が高校にはいっぱいいるでしょう?」

 そう言って恋人は微笑む。

 ああ、なんだ。

 同じことを考えていたのか。

 そう分かるとホッとした。

 だからそっと赤い指に触れる。

 美しく綺麗な指。

「俺、どんなに可愛い子よりも、この綺麗な指が好きだよ」

 そう言うと恋人は不満そうに言った。

 私の魅力は指だけじゃないでしょう?と。


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