ルートR:50年後の今
生きる道を歩んだルートRの世界の50年後…
彼女はどう思ってるのか?
私、歳を取ったなぁ。
今でもずっととってある。時々鬱になってはこれをみて、生きよう!って思える。
そう、68歳の阿部がくれた手紙だ。
でも今目の前にいる彼でないことは明白。きっとこれを書いた彼は私の知らない世界で生きているんだわ。
…なんて矛盾でしょうね。
でもきっと世界には理屈じゃ説明できないことがあってもおかしくはないんだ、って、あのときでもう気づいてる。
そう、私たちは今68歳になった。
「おーい、御茶ー」
「おーいお茶がいいってこと?それとも御茶が飲みたいの?」
「…!わかってるくせに」
「ふふ、そうだね」
子供もう大きくなってとっくの昔に出ていった。けど、やっぱり二人でいる時間もいいもの。
そろそろ言おうかな。言っちゃっても平気なのかはわからないけれど。
「…ねぇ」
「なに?」
「……私が死のうとしたときのこと、覚えてる?」
「何回もあるからね。覚えてるとも」
「高3の今ごろのは?」
「あー、覚えてる。すごく心配して心臓張り裂けるかと思ったやつだ」
阿部…夫は御茶をごくん。
「人身事故起こそうとしてたんだろ?…って、それがどうかしたか?」
「あのね。私あのとき本気で死のうとしてたの。でも、あなたが助けてくれた」
すると夫は頭の上にはてなマークを浮かべた。
「…?いや、俺が止めたわけじゃねぇよ。むしろ側にいてやれなかった。あれはお前自身の意志でやめたんだろう?」
ふるふる、と私は首を横にふった。
……違う、と。
「違う?」
「あなたが止めてくれたの。68歳の、あなたが」
「は…?俺が?しかも68歳って今だぞ?…あれ、もしかしてお前ボケはじめて…!?」
ふふ、と私は思わず笑ってしまった。だよね、普通に考えておかしいこといってるよね、私。
「あのね、これを読んでほしいんだ」
「…手紙?……拝啓、死前五秒前の君へ…?」
首をかしげながら彼は手紙をじっくりじっくり読んでいた。
「……お前、これは…」
確かに俺の字だ、と。
「私はこの手紙を読んで、救われたの。生きよう、あなたともう一度、一緒に生きよう、そう思えたの」
「この手紙がなければお前は死んでいた…?つまり、お前は一度死んだ道を歩んでいたんだ…!そしてその世界はその世界にいる俺が手紙を出したことによって消えた…!?いやでも待てよ、だとしたら時間軸が…」
「あなた」
「…お?」
「そんなこと考える必要なんて、ないわ。だって私は今生きているんですもの。その、私が死んでしまった世界はきっと、私たちの知らないところで存在しているのかもしれないし、消えてしまっているのかもしれない。でも、そんなの今の私たちにはわからないし、わからなくてもいいんじゃないかな?」
すると彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐににへっと笑った。
「…そうだな」
「けど、ひとつだけ言わせて?」
「なんだ?」
そう、世界がいくつあろうと、私が何人いようと、彼が何人いようと、ひとつだけ言いたいこと。
「私を助けてくれて、ありがとう」
「生きてて良かった」
生きてて良かった、そう思えたら、それだけできっと生きてる価値はあるんだと思いたい、そういう思いを込めて。
私もそう思えるようになれたら、そんな願いも込めて。