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ルートR:変化する過去

ルートR。彼女の、世界の可能性のひとつ。

「〇〇駅で人身事故が発生したため、運転見合わせ…」

うっわまじかよ、今あいつ塾で頑張ってるから迎えにいって帰りにおいしいケーキでも食べに行こうと思ったのになぁ。

あいつ、かなり凹んでた、センターうまくいかなかった、俺と同じ大学行けないーって。

あの顔とか雰囲気でわかる。

早く行かないとあいつほんとに死んじまうって。

中学のときも何度か自殺しかけて、俺が見つけなきゃ死んでた。

不安定なやつなんだ。俺が守ってやんなきゃいけないんだ。

だから早く行きたかったのに人身事故…ふぁっきゅー!仕方ない、歩けない距離じゃない。歩こう。


別にいいんだよ大学なんてどこでも。

あいつと一緒にいれるなら。

だからあいつが行くところに俺は行くまでだ。だからあいつが俺に合わせることがないように、俺は選択肢を狭めないように、俺はあいつより頭よくあるべきで、勉強だって頑張れたんだ。

LINEばっかやって、あいつより馬鹿になったらあいつの可能性を狭めてしまう。そんなのは一番だめなことだ。


そういや高校入ってからあいつ閉じ籠っちまったよなぁ、俺甘やかしすぎたかなぁ。

あいつはまだ可能性たくさん秘めてるんだから、俺とだけいりゃいいなんてそんな考え捨ててほしかった。「依存」は確実に感じたけど、それは俺も同じだから構わない。ただ、人と関わることをやめてほしくはなかったんだよなぁ。

なんてあいつに伝わってるかなぁ?


俺、あいつに謝んなくちゃなぁ。確かに俺はあいつが好きだ、大好きだ。

でも、俺はあいつよりもっと早く、…幼稚園の頃から「依存」していたように思う。

俺は幼稚園の頃、全くといっていいほどいい子ではなく、どちらかと言えば問題児だった。別に誰かをいじめたりはしてなかったけどな。人の気持ちには昔から敏感だったように思う。

だからあいつが本気で呼び名を嫌がってるのがわかった。そんでなんとなく声をかけた、それだけのことのはずだった。別になにか変わるなんて思ってなかった。でも違った。

「……ありがと」

「……え?」

「なまえ、すきっていってくれて」

「……!」

ありがと、なんてちっぽけな言葉が、俺には大きくて。あいつが初めて笑った瞬間だったのだ。

俺はその笑顔に惚れたのだ。

ありがと、とあいつはよく俺にいってくれた、そのたびに俺はそれに自分の存在意義を見出だすようになった。

百崎は俺に存在意義をくれたんだ。

つまりそれは「依存」にすぎない。


幼稚園の時あいつに約束を交わした。

「ケッコンしよう」とかそんなんだった。結構俺はガチで思ってて、ガチで今でも守ろうとしてる。

高校卒業でコクって、大学卒業でプロポーズするつもりだ。

…なんて、あいつは忘れてんだろうな。こんな冗談みたいな約束。

でもあいつと結婚して、子供つくってさ、未來ずっと一緒。ほら、俺たちの未來、めっちゃ明るくね!?


ふぅ、あともうちょっとで着くな。

結構歩いたから疲れちまった…

凹んでるあいつをなんて笑わせればいいか、考えろ。あいつの笑顔を守るのが、生み出すのが俺の役目だ、存在意義だ。

やはり伝えるべきか。

「好き」ということ。

大学は行きたいところに行けばいい、と。

俺はお前を見捨てたりなんてしないから、と。

そうだ、それしかない。

待ってろよ百崎。今、行くから。

頼むから俺を殺すなよ……?


百崎の塾にいっても百崎は来ていないと言われてしまった。

…嫌な予感がした。酷く嫌な予感が。

そういえばさっきの人身事故って、百崎の塾の最寄り駅なのだ。

まさか。そんな。嘘だ、嘘だよな、そんなはずない。

俺は駅へ走った。

「百崎……っ」

やめろ、頼む、不謹慎だけど、人身事故なら別の人であってくれ。

俺から百崎を、奪わないで、神様…!

駅の改札にいっても百崎はいなかった。ならもうホームしかない。あきらかに入っちゃやばそうだけどそんなこと知るか。

ホームを俺は走った。

遠くに人影がみえた。

「……っ」

「…………百崎!!」

「………………、阿部」









…来た、やっぱり阿部は来た。待ってて良かった。

「阿部ー!」

私はもう耐えきれなくてぎゅうっと阿部に抱きつく。

「よ、良かったぁ…もう俺、お前死んじまったんじゃないかって、不安で、気が気でなかったんだぞ…!」

「阿部ぇ……ご、ごめんね…」

なんで阿部泣いてるんだろう、そんな心配かけちゃったのかな。でも。

「ほら、私、生きてるから、泣かないの」

「良かったぁ…泣いてねぇよばかぁ」

そういって彼は涙を流す姿を私に見せまいと涙がとまるまで私を抱き締めて、ずっと頭なでなでしてくれた。

生きてて良かった、ただそれだけで思うのだ。

「…そうだ百崎、ケーキ食いにいこうぜ」

「ケーキ?なんで?」

「なんでも。奢ってやるよ、ほら行くぞ!」

「わっ、ちょ、阿部っ」

私の掌をぎゅっと握って彼は私のスピードに合わせつつ前を走っていく。

あぁ、さっきまでなんで死のうなんて思っていたんだろう。全部私の思い込みだったのに。


ケーキ屋さんについた。私はアップルパイ、彼はモンブラン。

「ん、おいしー!」

「そうだな!」

彼はにへっと笑った。

「…なぁ、百崎」

「なあに?」

「お前、死のうとしてただろ」

「……なんで?」

「なんでも」

「…うん」

そっか。だから人身事故で心配したんだ。私も驚いた。私の隣にいた人が飛び降りて死んでしまって。

「だめだろ、なんで俺に相談しないんだ?」

「ご、ごめんなさい…」

「俺じゃやっぱ頼りない?」

「ううん!…阿部に言ったら絶対止められるから……」

「まあな。だってお前まだ死んじゃダメだもん」

68歳の阿部と一緒だ、と内心私は笑った。

「ま、良かったよ、間に合って」

68歳の阿部のおかげなんだけどね、とまた私は内心笑った。

「私、」「俺、」

「「謝んなくちゃ」」

「「……ふふっ」」

「なんだよ先言えよ」

「え、いいよ阿部からで」

「俺さ、感謝もしたいんだ」

「私も」

あれ?なんで阿部もなんだろ?

阿部が私に感謝すること?謝ること?なにもないよ…?

「俺さ、お前のおかげで存在意義を見つけたんだ。お前からのありがとうと、笑顔を作れるのが嬉しくて。だからお前のために生きようと思った。でもお前が人と関わることをやめてほしくなくて、それで突き放したこといっちゃったり、でもそれは」

「阿部、いいよ。わかってる」

「…え?」

「わかってるから、全部。私のこと思ってくれてたんだって」

今ならわかるから。

迷惑がってなんかなかった。嫌いなんかじゃなかった。

「ありがとう、阿部。私もごめんね。阿部の気持ちなにも考えずに死のうとしちゃったり、悲しませたり。依存もしちゃってごめん」

「依存はお互い様だろ。あともうひとつ、言いたい」

「私もあとひとつ」

「…なんだよ」

「阿部が先」

「お前先だ」

「……私、やっぱり阿部が好き!やっと気づけたの、初めて好きになった瞬間を。依存でなく純粋に阿部を好きだった時を。それで改めて言えるよ、私は阿部が好きなの」

ぽっと頬が赤くなってそわそわして、彼はそっぽ向いた。そんで俯いてくそぅ、とか、先越された…とかぶつぶつ。

「なあに?阿部」

「俺も好きなんだってこと」

「へへ、そっか」

「…だからさ。…付き合ってください」

………!?

そう来ちゃう!?

「……はい、喜んで」


その帰り道………

「お前さ、行きたい大学に行けよ」

「うん。そうするつもり」

「俺も行くから」

「え!?だ、だめだよ阿部はもっと優秀なとこいけるんだから!」

「いいんだよ。元々そう決めてたの。俺はお前と同じ大学に行くって」

「でも…」

「いいんだ、これまでも、これからも、俺はお前のために生きるから」

「せっかく勉強頑張ってたじゃん…」

「お前のためだよ。お前より頭よくなきゃ、お前の可能性狭めちゃうから」

「…!そ、そこまで考えてくれてたの…?」

「はは、それが俺の役目だ。存在意義だ」

おかしい、おかしすぎるよね。

でもいいんだ。

結局私だって強がってるだけ。

ほんとはずっと阿部といたいの。だからまた甘えちゃうんだ。

「じゃあ同じところ行こうね」

「あぁ、もちろん」


幼稚園の頃の約束を実はお互い覚えてたなんてことがわかるのは、私の自閉症が治るのは、子供がうまれて阿部の存在意義が私だけでなくなったのは、まだちょっぴり先のお話。


世界は、未來は、変わりだした。


手紙によって世界の歯車が新たに回り始めた。

50年の月日を経て始まった二人の恋。

世界は、未來は、過去は、いくらでも変えられる。


それがルートR。RESTART。

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