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拝啓、死前5秒前の君へ

過去を変えようとした男から、死んだ、いや、死前5秒前の女へのラブレター。

こんにちは、お元気ですか?…って愚問か。元気なわけ、ありませんよね。

あぁ、お前誰だよって話ですね、信じられないかもしれないけど、言っておきます。

僕はかつての…いや、その時だと今の…クラスメートの阿部です。今、68歳です。

時代の変化はすごいものですね、まさか本当に時間を止めて君に手紙を送れるなんて。「死前5秒前の君」に送れるなんて。


…あれから50年です。僕もすっかり背中が曲がって、老化が激しいものです。でも君はまだ18歳のままなんです。つまり、今死のうとしてる君に言っておくと、君は死にます。

「急行電車に飛び込んで自殺した」というふうに聞いています。

どうですか?今の君の視界は。

電車が見えますか?線路が見えますか?


…僕が50年たってこの手紙を送ろうと思ったのは技術の進歩もありますが(過去に手紙を送れるようになったのはごく最近のことです)一番の理由は、君に自殺をやめてほしいからです。

過去を変えようとするなんて。でも僕はパラレルワールドが出来てしまって構わない、前代未聞の犯罪者になったって構わない。

ただ、君にこの美しい世界を生きてほしいんです。

パラレルワールドになってしまったとしても、きっとこの美しい世界はどの平行世界にも共通してることだろうから。

といっても、美しい世界なんて思わないから死のうとしてるんですよね。

5秒前の人間を変えるなんてそうたやすいことじゃない…わかっています。

私の話を聞いてください。18歳…君の知ってる阿部の、その後を。


結局君がいないままみんな卒業していき、僕も大学へ進学しました。君と一緒に行こうと誓って一生懸命勉強して、合格までしたのに、君がいない。

大学を楽しんでる裏にはいつも君の死が付いて回りました。僕はこんなに楽しんでいいのか、と。

しかし時は残酷なもので、大学を卒業する頃にはすっかり君のことなど忘れ、自分の明るい将来を夢見て社会へ飛び込みました。あの時経験した社会の厳しさ、挫折。68歳の今振りかえるといい思い出なんです。

そうして20年程たったころ、誰かが同窓会をやろうと言い出しました。もちろんいきました。

…誰も君が死んだことなんて触れませんでした。みんな忘れたのかな、クラスメートなのに。そう思った時。みんなよい疲れた頃。

「…そういや、あいつ天国で元気してっかな」

そう、誰かがボソッと言ったんです。

静かになりました。だから。

「そうだな。あいつにもカンパイ参加させたいな」

と僕は言いました。

すると同窓会全員のみんなが天高くビールをかかげ、そして祈りを捧げました。君と全然関わったことのない人だって。それほど君の死は僕らにとって衝撃的で、悲しいことだったんです。

…そうこうしてるうちに遅い方ですが僕も結婚しました。会社で知り合った女の人とです。子供も授かり、幸せな家庭を築きましたが、妻と子供は三年前交通事故で死にました。子供は君と同じ、18歳でした。それで遺品を整理しているときに見つけたのです。

幼稚園から大学までの卒業アルバムを。

君との思い出が鮮明によみがえり、僕は泣きました。妻と子供をなくした時より泣きました。

幼稚園の時の約束なんて冗談のように儚いのに、僕らの「結婚しようね」なんて約束を、君が死ぬその日まで守ろうとし続けたんですよ、僕らは。


…それだけ君のことが、僕は、大好きだったんです。

いま、今もまだ君のことが好きなんです。

…だから。

君と結婚したいんです。

…だから。

君に生きていて欲しいんです。

苦しいこと、辛いこと、たくさんあるかもしれません。だからこの世界に絶望し、死を選んでいるのでしょう。

でも、 必ずあとで笑える日が来ます。

来ないなら僕が必ず笑わせます。

そのために、君は今ここで死んじゃいけない。

もうこの方法しかないんです。

君ともう一度やり直すには。

パラレルワールドに行かないで、ただ僕は犯罪者として捕まるだけかも知れない。過去を変えたものがいないから分からない。

…だってこの技術は僕と、僕の仲間が開発したんです。

君ともう一度巡り会うために。

だから、遅すぎかな?いや、早すぎかな?

言わせてもらいます。


僕と、結婚し、生涯一緒に生きてください。



―愛してる。

阿部

次回は女目線です

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