第四話:異世界人
なんか、真面目になった......
槍ちゃんは大阪弁風で、剣ちゃんは京都弁風です。読み難かったらごめんなさい。
「つまり、俺はこの場所では異世界人なのか?」
「うん、そういうことになるね」
異世界人、まるでネット小説の主人公みたいだな、おい。
滑子ちゃんの話を聞く限り、俺はこの場所に迷い込んだ異世界人らしい。
俺のような異世界人は少なく、一年に大体、五六人は迷い込んで、その大半がこの場所に住み付き、それ以外の人間は元の場所に戻るために旅をするとかなんとか。
「で、君達は精霊さんだと?」
「うん、わたし達はキノコの精霊、ここら辺の自然教徒の人達に崇められている一種の神様みたいなものだね」
「自然教徒の人達はみんな優しゅうて、色んなもんをタダで譲ってくれるんやで、羨ましいやろ~」
「はい、熱心な人なら、指輪とかもくれるんです」
「アマニタさん、それ求婚ですぜ」
う~む、なんか、楽観的に虫取りに来たら大変なことになってしまったようだ。こんな状態じゃあ、ナンパすらできやしない。
頭をポリポリと掻き、今の状態を軽くまとめてみる。
虫取りに来た。
森で迷った。
アマニタさんと出会った。
槍ちゃんと剣ちゃんと出会った。
滑子ちゃんに指フェラされた。
この世界について、軽く聞いた。
なるほど、大体理解できた。
「元の世界に帰る方法とかって、ないのかい?」
「う~ん......クサウラベニタケの臭裏 紅 (クサウラ クレナイ)さんなら、帰る方法を知ってるかも? あの人、万年何かの研究してるし」
「クサウラベニタケの臭裏 紅。その人はどこら辺に住んでるんだ」
「あの人は、一年の殆どを何かの研究の材料拾いに費やす人だから、相当運がよくないと会えないと思うよ?」
マットサイエンティストは旅好きですか、まあ、期待はしていないなかったが。
でもまあ、俺以外にも、人間が住んでいるなら仕事はなくはないだろう。最悪の場合、森で調達した食材を街で売ればいい。現地調達は得意なんだ。
「そうか~、なら、この場所で生活するしかないというわけだな。家と適当な仕事を探さないと......」
「家は心配いらへんで、この家に住めばええ」
「いいのかい? 添い寝に来ちゃうよ~」
「残念やけど、鍵を掛けますんで」
「そりゃ残念」
まあ、ピッキング出来るんだが、俺は求めてくる女を抱きたいタイプの男なんだ、夜這いと強姦は絶対にしない。
でも、屋根のある場所で眠れるのは正直ありがたい。外で寝るのは、あの場所の記憶が蘇りそうで怖くてしゃーない。
「まだ日が高いな、よし、街まで行ってみるか」
「道わかるんか?」
「わからん。誰か付いて来てくれ」
「なら、うちが付いていきます。夕飯の買い物がしたいんで」
買い物籠を持った剣ちゃんが俺を見てニコリと笑う。
よし、道案内に剣ちゃんが付いて来てくれることだし、人里に行ってみるか。
三十分ほど獣道を下って来たら、中世ヨーロッパ風の建物が立ち並ぶ街に到着した。
こりゃ、よく出来た街だ......
「剣ちゃん、この場所のお金の単位とリンゴを一個買えるお金の量を教えてくれないかな」
「この世界のお金の単位はゴールド(G)で、リンゴは1Gで買えます」
つまり、大体1Gが約百円といったところか? ドルに近いな。
気を利かせた剣ちゃんが財布の中からお札を取り出した。
「これが1G札、これが10G札、これが100G札です。1G以下だと、この銅貨が使われます」
「なるほど、やっぱりドルに近いな」
石油の闇流しの時にも、殆どがドル建てだったからな、計算は慣れている。
よし、金の価値がわかったところで、観光しますかね~
「剣ちゃん、お買い物は俺がこの町を見て回った後でいいかい? 荷物が重かったら疲れるし」
「はい、大丈夫です」
剣ちゃんの歩幅に合わせてゆっくりと石造りの地面を歩く。
武器屋に防具屋、道具屋に宿屋、まるでRPGゲームのような店まで立ち並んでいる。こりゃ、ゲーマーがこの場所に来たら泣いて喜ぶだろうな。
まるでゲームの世界のような風景を見て、やはり異世界に来てしまったのだと酷く実感する。元の世界に帰れるのだろうか? まあ、こんな経験は滅多にすることではないし、数年くらい居座るのも悪くない。優しくしてくれる人達に出会えたのだから......
「秋宏さんの住んでいた場所は、どんな場所やったんですか?」
「ん? 俺の住んでいた場所かい」
不意に俺の住んでいた場所に付いて聞いてくる剣ちゃん。よく考えると、俺が一方的に質問をして、俺の情報は一切教えていなかった。
「俺の住んでいた街は、こんな風な作りじゃなくて、ここら辺のお店の何十倍もあるような、ビルって言う建物がいっぱい立ち並んでる」
「そんな高い建物があるんですか?」
「ああ、それも其処ら中に。それに、地面はこんな風な石造りじゃなくて、アスファルトっていう、油から出来た石を敷き詰めたザラザラの地面で、転ぶと大惨事だ」
「ザラザラ!? 転んだらいっぱい血が出そうやな......」
アスファルトの話を聞いて震え上がる剣ちゃん、まあ確かに、アスファルトは怖い。昔、短パンで走ってて、アスファルトの上で転んで以来、アスファルトの上を走るのが怖くなった。
「それ以外には、車っていう、油で動く機械があって、色々な場所に連れて行ってくれる」
「お馬さんみたいなもんですか?」
「いや、馬の何十倍も速く走れる。でも、それを動かす油が高くてね~」
俺の話を聞いて目を輝かせる剣ちゃん。
まあ、この場所で育った子なら、ビルやアスファルト、車なんて知っているわけがない。この情報ははじめて聴いた、新鮮な情報で、夢や想像が膨らんで楽しいのだろう。
「他には......」
「他には、他には!」
「――銃っていう、呪いの道具がある」
「銃?」
思わず口に出てしまった。俺に地獄を見せた道具、俺を悪魔へ変えてしまった道具のことを......
「ああ、銃は人を殺す道具で......馬鹿みたいに強い......」
「剣や槍よりもですか?」
「そう、君が想像する最強の武器より数十倍強い。鉛で出来た弾を火薬で飛ばして、人間を撃ち殺すんだ。話を聞くだけじゃあ、弱そうに聞こえるが、実際はどんな武器よりも惨くて、下手をすれば、殺す必要のない人まで殺してしまう」
剣ちゃんはとても悲しそうな顔をした。
多分、悟ったのだろう、俺が銃を使ったことがあると、人を殺してしまったことがあるかも知れないと。
「......秋宏さんも、それを使ったことが」
「ハハハハッ! そんなわけないじゃないか、俺がそんな物騒な物を使うと思うかい?」
「で、ですよね! はぁ~よかった~」
笑い飛ばして誤魔化したものの、目だけは、今にも泣いてしまいそうな目だけは、誤魔化すことは出来なかった。
話が薄いような気がする、もっと濃くしないとな~