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第一話-贖いと回想と今と現在

 

 

 人生も、現実も、この世界は全てひっくるめて、どこまでも無情だ。

 だから、どこまでも、極限の限界、自己の人事を尽くせる最大限で、尚且つ全将来を見据えた最善を尽くさなければいけないのだ。



 男が拳銃を向けていた。

 十数人の人間が、その場を一切動けないで居る。


 警官が発砲した、仲間を二名やられて、感情的になったのだろう。

 肩を撃ち抜かれて、その場に膝を着く警官、だが犯人の胸に銃弾を叩き込んだ。


 犯人は自暴自棄な顔をして、人質を見る端から撃ち抜き始めた。

 中には、死に掛けの高年男を盾として、自らは生き残る若い青年も居た。


 それが俺だった。


 ほうほうの体で逃げ出して。


 歩道橋でうずくまって、身体を伸ばして倒れる二名の私服警官。

 女性警官が、もう事切れたっぽい方を、悲痛な絶叫を叩きつけて、襟を掴んで揺さぶっている。

 もう一方は、己の死期を悟ったかのように、呆然とソラを見上げていた。


 それが俺の原風景だ。


 その後は、俺は日常に戻ったが、どうしても耐えられなかった、順応し適応する事が出来なかった。


 だから、自ら闇の世界に堕ちた。

 命に変えても、いやただただ自暴自棄か、そうだったのだろう。

 俺は自己の命を賭けて、ただ冷徹に冷酷に、殺しを行っていた。


 そうしていなければ、罪の意識にも何もかも耐えられず、俺の精神の限界を瓦解させるって悟っていたから。


 そんなダークヒーロー染みたやり方で、何が変わった訳でもない、より取り返しが絶対に付かないくらい、堕ちただけだった。


「はぁっ!はぁっっ!!!!」


 毎日毎日、どこまでも背筋が凍り、冷や汗の止まらない悪夢を見る。

 大体は、俺自身が無上に切ないと感じる悲劇だ。


 普通の、頭撫でられて、うへへと笑って馬鹿面ら晒す、そんな金髪の少女が一家惨殺された上に、闇の世界で生きる夢だった。

 俺と似て否なる、正義感に溢れた悲痛な決意を感じた。

 でも最終的に夢の終わりは、冷酷になりきれず、というより人間をやめる事ができない、いわゆるこっちの世界で言うところの、”甘い仕事のせいで、始末されて終わり。

 最後の、少女の夢、走馬灯をシンクロして回想、親からぬいぐるみをもらって喜ぶ、少女自身の笑顔で締めくくられ。

 回想が終われば、致死量の麻薬を首に打たれて、それなりに成熟した乙女の身体が、なまめかしく痙攣し、快楽に狂い死にした少女がいた。

 最後に幸せな夢を見させる、暗部でよく見られる、安楽死を超えた、ある種の最後の特別ボーナス、あるっちゃある、俺の記憶が知っていた。

 それでも、喜びの中に圧倒的な後悔を宿した瞳や、失禁し、哀れを誘うその儚く華奢な見目が印象的で衝撃的で、俺の心は鮮烈なインパクトを受けて、今も心臓が果てなくゾクゾクやら、ドキドキやら、していた。


 生きる為に、人間をやめた人間の、最後の良心が、いや最後に残ったからこそ、いつまでも痛みを感じさせ続けるのだろう。

 絶望の中にある希望ほど、鮮烈で強いモノは無い、それと似て同じようなモノなんだろう、この痛みは永遠に続く確信がある。

 

 だがしかし、これは必要な、俺の生存本能が見せる夢なんだろうとも、思う。

 こういう夢をみて、精神を以上活性化、日々常時強化し活性化し次元を高め続けなければ、とても生きていけそうにない。

 あらゆる勘を研ぎ澄まし、死地に置いて、一切狂わない精神性、人格を神の領域にまで高めたくなるような、そんな場所で生きている自覚がある。


 それに、最後の良心すらも、踏みにじる、生への渇望。

 俺が俺を生かすために、どんな、それこそ老若男女、見境無く、殺せといわれれば殺す、そういう精神を保つためにも、必要だ。

 生への渇望は、他人の死を、様々な形で見れば見るほど、強くなる、そんな単純なモノじゃない。

 しっかりと、自己の命を切り捨てて助けたいほどの、仲間、それを失って、初めて真に積み重なるものだと信じる。

 だから、一朝一夕や、悪戯に生きているだけでは意味が無い。

 自己の存在が世界に対して、あきらかマイナスになってる俺が、言えた話じゃないかもしれないが。

 

「大変な目にあったね」


「死んじまった奴の方が、大変だったろうよ」


 昨日の、施設の長が企画したらしい、言うには試練とかの終わった今日。

 試練で、俺の大事な存在、として認識されていた少女は、あながち間違ってはいなかった訳だ。

 催眠や暗示で、精神を芯から不安定にされた状況下における、実戦訓練とか、そんなふざけた話だったんだろう。

 

 敵の銀髪の糞やろうは、同輩の中でも、切磋琢磨したライバルだった、もう死んだ後は、悲しいだけの話だ。


 目の前には、あの場面での黒髪の少女がいる、肩を釣っているので、怪我でもしたのだろうか?

 案外、俺を心配させるだけの振りかもしれん、コイツならやりかねない。

 そういう、冷や汗流させる事も平気でして、俺をいつも必死にさせて、精神の次元を上げてくれる。

 つまり助けになるなら何でもする、手段を選ばず、それを超えて感情すら、一切介在させないような所もある少女と認識する。

  

 場所は変わっていない、あの家は俺達の寝床みたいな場所だった、そんな場所で同輩同士で殺し合わせる、趣味が悪いったらない。

 少女は服装が変わっている、いつも通りの、黒の制服にミニスカート、髪も真っ黒だから、凛とした堅い印象を与えそうだ。

 しかし飄々とした猫のような身のこなし、感情の伺えない眼差しが、どこか常軌を逸した感じを見るものに植えつける。


「ねえ、まだお礼、言ってなかったね。

 助けてくれて、ありがとう」


「別にいい、あの時は、何も考えていなかったわけだし」


「それじゃ、私の気が済まないよ。

 命を助けられたんだよ? お礼くらい、素直に受け取って欲しいな」


「どういたしまして」


「うん、それじゃ、君の命が危機に陥ったら、必ず命懸けで助けるから、しっかり覚えておいて」


 濁った、光の無い、無感情な瞳だ。

 コイツは計算だけで動く、機械のような殺戮人形だ、だから、こんな誓約もする。

 俺に対して必死である事が、長期的に見れば、コイツの生存確率を上げるってだけの話だ、俺もそうだから分かる。

 つまりは、そんな壊れてしまいそうな精神を補完しあう、相互依存関係って訳だな。


「指令だね」


 お互いの所持する携帯が鳴る、今回はメールでの指示だ。

  

「的は、近年活躍著しい、革命家だね」


「合同か、知らん所からも来てるし、味方に背中を撃たれる可能性も、一応は警戒しないといけないな」


「それじゃ、お互い背中合わせで戦おう? ナイスアイディアだと、思わない」


「できるか、動きが制限されるし、限定的な状況下でしか使えんだろうよ」


「そんな、頭ごなしに否定しなくてもいいのに」


 しょんぼりした、風を装う。

 コイツは、この世界の住人の中でも、割と喋る方だ、それだけ精神に余裕があるとも言える、そしてそれは常軌を逸した使い手でもあると同義。

 ようはコイツも俺も、雑魚じゃない、雑魚を平気で片す程度には、腕も何もかも、精神を含めて整っているわけだ。

 そんな奴同士の会話だから、雑談の中からも、自然得られるものはある。

 繋がりを育んだり、心を通わせて、戦地における、自然や反射に近い連携、コンビネイション力を高めたりな。

 施設の長も言っている、仲間とは仲良くなれ、それもお互いの命を預け、時には差し出すほどにな、とね、全く有り難いお言葉だ、的を射ていると思うね。


「ねーねー」


 無意味に上目で、無意味に可愛らしい所作を交えて、猫撫でるような声で寄ってくる奴。


「どうした?」


「なんでもない、ただ話すこと無いけど、話しかけてみたくなっただけ」


「そうか」


「そうなの」


「・・・・・」


「なんか話してよ」


「お前が話せば、いいだろ?」


「偶には、そっちから何か話題を振って欲しい」


「そうか、最近辛い事はあったか?」


「生きてる事が、辛いよ」


 その台詞は悲痛に満ちていて、隣を見ると、涙目で、泣く一歩手前の少女が居た。


「ぎゅって、して」


「ああ、わーたっよ」


 俺は基本的に、こいつの望む事は、なんでもしてあげる事にしている。

 お互い、利用して利用される、そんなプラトニックな関係性だ、突き詰めて考えればの話だがな。

 だからだ、コイツが俺の利用法として、”そういう用途”も視野に入れているなら、協力するのも吝かではないって訳だ。

 当然見返りもあるんだろうしな、でなければ、関係性構築の段階で、きっと俺は足きりして、コイツを切り捨ててるはずだ。

 つまり見込みがあるコイツは、何かと使える、無駄な事は一切しない信頼があるってわけだ。


「うにゃ」


「そういえば、その怪我、大丈夫なのか?」


 この場面での大丈夫かは、冗談でなく真に迫る。

 この施設では、用無しに成ったやつは、基本的に無残に処分される。

 この問答の結果いかんでは、今日でコイツともお別れだ、そういう覚悟の篭った質問だ。


「大丈夫、このくらいなら」


 情の移ったコイツの、紛れもない安否に、割かし必死な俺の態度を知らんか、あっけらかんと答える。

 この調子、やっぱり俺を無意味に心配させて、精神を煽る、圧迫するだけの魂胆だったらしい悟る。

 まあ、百が一くらいで、コイツの最後の、俺への餞別かもしれない、そういう場合もありえるかもしれないがな。


「なら、よかったよ」


「私の命、心配してくれるの?」


「ああ、そうだよ、俺とお前は、ある意味一蓮托生な面もある、できれば、お前には生きていて欲しい」


「私も、君には生きていて欲しい、私が死んだとしても、君だけは生きていて欲しい、そう思うの」


 演技か見極められんが、情熱的な視線を向けてくる。

 俺が判別できないレベルって事は、どの程度かは本心なんだろう、百パーセントまんま本心って事はありえないだろうが。

 こういう駆け引きみたいな事も、コイツとの関係では頻出する。

 嘘と欺瞞に塗れた関係性か、それとも真に清い関係なのか、どこまでも疑い続けるってのは、割と楽しめる、俺もコイツも、そういう悦楽を知っている。

 だから最大効率で良く考えて、上手く振る舞い立ち回り、相手に恩を与えるような事もするんだろう。


 例えば、敵から守ってやったつもりで、その実、その敵自体が、そいつの差し向けた敵だった、とかな、そういう話もある。

 まあ今回の話じゃねー、昔やった俺の手口だ。

 惚れ易い腫れやすい、そんな哀れな女を、上手く手玉にとって、俺の盾に仕上げるために、昔使った実体験を伴った話だ。

 でもまあ、最終的には捨て駒のように殺したわけじゃないのは、たまたまの巡り会わせだったな。

 お互いがお互い、まあ相手の方が俺よりも必死に想っていたのは確実だが、助け合い庇い合って、最終的に弱かった奴は死んだ、ただそれだけの結末だがよ。


「それじゃ、行くぜ」


「そうだね、今回も、生き残れるといいね」


「当たり前だろ、そう思ってなきゃ、今すぐ死んでるっつの」


 手を銃の形にして、自殺の前動作のような真似をして、楽しげに笑った。


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