プロローグ・始まりの始まり、
ここは何処だ?
一度家を大々的に引っ越して以来だ。
俺は自分がどの辺りに、町のどの辺に住んでいるのか分からなくなった。
家が前と比べて、とんでもなく広くデカくなった。
前は普通の、庭も無いごくごく普通の一戸建て、しかし今は庭付きの豪邸のような場所だ。
町には出ていない、すこし位置が変わっただけ。
それなのに大いなる不信感、居場所が定まっていないような感覚がずっとあるのだ。
今日は四人組の親戚が来る日だった。
「父さん、母さん、今日は親戚の子供たちも来るの?」
俺が尋ねる、するとそうだと、返事が返ってくる。
頭の中が酷く疲れている。
今にも、吐き気を催すほどの、自分の居場所の不確定さ、更にその恐怖と気持ち悪さに、本気で可笑しくなりそうだった。
親戚たちが現れた。
その中の一人、黒髪の、俺と同年代ほどの少女が近づいてきた。
俺は、この分けのわからない、そういう感情によって、まともに対応できなかった。
いつからか、風呂場の方で扉を開く音。
そして、他の、俺と少女以外の五人。
具体的には俺の両親、そして少女を含めない親戚家族、両親と兄がその場から、リビングから消えていた。
恐らくだが、風呂場の方に、なぜか行っているようだ。
そして、遠く玄関の方から物々しい音がしだした。
扉を蹴破る音、そして銃声。
とんでもない事が起きている事だけは分かった。
とりあえず、俺は守るべきだと、頭の中にインプットされていた、少女を見た。
だがしかし、その少女は、どこかに消えていた。
とりあえず、俺の目の前からは、いつの間にか消えていた。
俺は胸を探る。
なぜか、意味が分からないが持っていた、シルバーの自動小銃。
それを手に持ち、玄関からの侵入者に対応する。
壁を背にして、相手の出方を伺う。
しかし、どうやら、いつまで立っても、銃声が玄関の方からするだけで、ここまではやってこない。
少女が戦っているのか?
他の家族は? なぜだか知らないが、全員広い風呂場の方に居るぞ? ホントなぜか分からないがな。
しかし、今はそんな事に意識を裂けれなかった。
自然と、少女の安否のみが心配で、恐らく銃声の方角。
これまた予想だが、戦っているのかもしれない少女を探す為だけに、銃声の方に向かう。
玄関の方にすこし進路を進む。
少女が胸を打たれて、その場に真っ赤な鮮血を大量に、そして盛大に滴らせて、倒れていた。
それに近づこうとした瞬間。
銃を持っていない、俺の肩口が射抜かれていた、大きく仰け反りながらも、壁の裏の方に隠れることが出来た。
片方の肩を抑えながら、もう片方の腕に持つ銃を、とり落とさないように強く握り締める。
視界に一瞬入れた侵入者は。
二人は特殊部隊のような制服に身を包んだ男、手にはサブマシンガン。
一人は普段着の、長身でガタイの良い、銀髪の男だった。
俺はその銀髪の男に撃たれた。
手には、一瞬だけ垣間見た銃口から判断、おそらくマグナムリボルバー、それも真っ黒な色彩である。
その間も、俺を殺そうとする銃撃は激しかった。
サブマシンガンの連続する音、そして大口径のマグナム特有の鈍い銃撃音。
背を預ける壁の裏から、一瞬だけ姿を少し見せ、威嚇の為の射撃。
敵からの応射の、その一瞬だけ発生する隙。
それを逃さず敵三人に向けて、特に大きな狙いを付けない、そんな銃撃だ。
ただそれだけの事で、特殊部隊の制服を着た、二人を戦闘不能にできた。
どうやら、本当に厄介なのは。
俺のこの攻撃を避けることが出来た、ただ一人の銀髪の男のみのようだ。
俺はそれで、壁の裏から離脱、リビングの方に一度撤退する。
銀髪男が追ってきているか分からない、だがとりあえず位置が割れた場所に居るよりかはマシだ。
しかし、どうにも追い詰められた形らしい、このリビングは袋小路だ。
不覚にも、リビングで佇む俺に、間髪入れない速度で突撃してきたらしい銀髪男が銃撃。
俺は咄嗟に、システムダイニングの裏に隠れる。
そして銃撃の終わった一瞬、身をすこし躍り出させ、銀髪男を視界に入れてこちらも銃撃。
胸に一発、致命傷の銃弾を叩き込むことに成功。
しかしこちらも、残った肩を射抜かれ、銃とともに仰け反らされた。
当然銃も手から離れ、遠く吹き飛ぶ。
銀髪男はその場で倒れながらも、横たわった片方の腕には。 マグナムが握られ、こちらを指向していた。
これではこちらはただ敵の武器に撃たれるのみだ。
俺は取りこぼした俺の銃を探した、少し離れたダイニングの、奴の銃口の範囲内に落ちていた。
ジャンピングするように、その銃に飛びつく。
銀髪野郎の銃撃を、紙一重で交わしながら、僅かばかり体のどこかを掠めたが問題ない。
銃を無理な体勢からも、掠め取るように両腕の内に収める。
そして横たわる銀髪の、その胸の中央を、定まらない、震える両腕で銃を抑えて激鉄を引き抜く。
胸の中央を正確に射抜き、男が血を吐き出していた。
こちらに銃撃は無い、既にマグナムを引き絞る、そういう握力すらなくしたか。
「こうなるのは、当然予想済み、よく出来ました、合格点を上げましょう」
風呂場の方に隠れていた、家族たちがぞろぞろ、リビングの方に出てきて話し始めた。
「貴方が最終的に残った、ならば、競争に負けたこの男は不合格、殺すしかないわね」
まだ息が合ったのか、銀髪男の顔を見る。
その表情は、酷く歪んでいた、だがどこか面白気で、どこか余裕すら感じた、これから殺されるというのに。
だいたいだ、なんだこの状況は。
全く持って意味が分からないことが多すぎて、純粋に凄く混乱している。
分からない事情が多すぎて、もうどうにも、何をして良いから分からず、その場で硬直することしか出来ない。
横たわる銀髪男の、その側頭部に、女が手にしていた銃口が押し付けるように当てられる。
この女は確か、親戚の、黒髪の少女の両親の一人、なぜこのような事を平然としているのかも意味が分からないし。
俺の両親も、その場で佇み、何事も無いように、この事態を静観しているのだ。
どうすれば良いのか、全く分からない。
だがこの後すぐ、銀髪男が殺されるのだけは、明瞭に理解できた。
そこで意識が途絶える。
両肩を撃たれた出血によるものか、その場にいる誰かに何かされたか、分からないが。
とにかく、俺の意識は、そんな中途半端なところで、一端途絶えるのだった。