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魔女は黒髪がお好き  作者: 周
9/22

8:魔女の解放

本当もう何か済みません。ガンバリマス。精進します。

 断罪の声だった。


先程までの動揺が嘘のように一片の感情も覗わせない凛と伸ばされた背筋、蒼褪め表情を失くした顔。

何かを、あるいは全てを決意したかのように、僕の腕から半歩離れる。

「ある意味、私は待っていた。貴女が現れるのを」

ついと床を指さすと魔法陣が浮かび上がり、男の体が光の檻に閉じ込められる。

「貴様を拒み惨殺されてから140年間、何の備えもせずにいたと思うか?!」

「ディアナ!止めて、止めて!許して!あたしをただ受け入れて!貴女になりたかっただけ!ギルバートになりたかっただけなの!!」

頭を掻き毟り、半狂乱になりながら情けを乞う。

「見苦しい!ギルバートには懇願する(いとま)すら与えなかったくせに!『The Virgin(聖母) Mary's()Clenched() Fist()』!!」

右の壁を指さし、鋭く唱えた。

男の体が短い悲鳴を上げ左に跳ね飛び、光の柵に押しつけられる。

「『The Empress's(女帝の) Elbow() Bat()』!」

背後の暖炉の上を指さすと、正面斜め下に叩きつけられる。

「『The Goddess's(女神) an() Iron() Hammer()』!」

左の壁を指す。

右やや斜め上に押し上げられた。

「『The() God's() Judgment(審判)』!!」

天井を指し示すと、一際大きな魔法陣が発動し、まばゆい光が降り注ぐ。

「最後の審判を受けよ!」

Dの言葉を合図に男の中から抜け出た物が、床の魔法陣に吸いこまれて行く。

「ディ…ア…ナ」

抜け殻の肉体は神の光を浴び、灰色の塩と成り果てた。

役目を終えた魔法陣は、急速に光を失う。と同時にDの体から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになるのを慌てて抱き止めた。

清浄な光が、目を閉じたDの内側からゆっくりと広がってゆく。

額飾りの紅い石が砕けた。

全てが消えてしまいそうな儚い光に恐怖を感じ、愛しい体をかき抱く。

「大丈夫…だ」

苦しそうな呟きに、慌てて髪を掻き上げ顔を覗き込む。

夕焼けの中で見付ける、微かな違和感。

細かに痙攣しながら、重たげに持ち上がる瞼。

現れた瞳は、赤い夕陽を浴びてなお、青かった。

梳き下ろした髪を光にかざせば、銀ではなく淡い金に輝く。

「…D…?」

躊躇いがちに名を呼ぶと、視線が合わさる。

「私は…遣り遂げたのだな…?」

掠れた声に胸が詰まり、言葉を返さずにただ頷いた。

自分の髪の色に気付いたDが微笑む。

「ほぅ…禁呪も、解けたのか…そうか…」

億劫そうに再び目を閉じ、乾いた唇を噛みしめるように湿らせた。

「D?」

不安に駆られ、軽く揺すりながら名を呼ぶ。

「ん?あぁ…ちょっと、140年分の疲労が、こう、どっと出てきた」

「D、しっかりしてよ」

正直、激しく動揺していた。

抱いている体から力が抜けていくのが怖くて、どうしようもなかった。

「あまり揺するな…眠い…このまま眠らせろ…バート…」

「D?!」

腕に全身をだらりと預けられる。

恐る恐る口元に耳を近づけると、規則正しい寝息にくすぐられた。

「…貴女という人は…」

泣きそうになりながらDの体を抱き直す。


寝室のベッドに横たえたが離れ難くて床に直接座り、Dの手を握る。

いつかと同じ状況。

違うのはお互いの年齢と僕の気持ち。いや、この気持ちはあの時に生まれた、今も変わらず胸を熱くさせる想い。

空いた手で白い顔にかかっている髪を撫でつける。

安らかな寝息を聞いているうちに眠りに誘われ、ゆっくりと意識を手放した。


「呪われた魔女」は、もう居ない。


誤字・脱字・意味の通じない表現等ありましたら、そっとお知らせいただけたら嬉しいです。

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