7:魔女の報復
本当に話にいきなり感があるかもです。今後の課題です。
虫の知らせとはこの事だろうか。
あの日から3年もの間、週末の帰省を欠かしたことのない僕が、週の半ばにして何故だか急にDの様子が気になった。
教官の気まぐれで、午後の日が高いうちに自習になったのも大きい。
騎馬の訓練という見え透いたサボりを決行して、Dの森へ向かった。
同輩には病気の母の様子を見に行くと言い残して。
馬を適当な柵に繋げ、家に居るかを確認するために窓から覗いて、全身の血が逆流する。
知らない誰かに包まれるD。
状況を確認する前に踏み込んでいた。
「D!」
はっとこちらに向けられた赤い瞳が一瞬助けを求めた気がする。
「貴様は誰だ!Dから離れろ」
肩を掴んだ手が払われ、底冷えのする光を湛え睨みつけてくる琥珀色の瞳が、見る間に緑に変わっていった。
背筋に冷たいものが流れる。
僕の中に何を見付けのか、顎をしゃくり名乗ること無く恫喝してきた。
「お前…何故ここに居る?」
正規軍の猛者に比べれば、取るに足らない威圧感。
知り合いではない者の問いを鼻であしらおうか逡巡していたら、Dの方が先に動いた。
「ディアナ」
男の腕の中から逃げたDを甘ったるい声が追いかける。
Dを背に庇うために、追い縋ろうとする男の前に割り入った。
歯を食いしばり顎を引き、睨めつける。
見返してくるのは翠の瞳、狂気を孕んだ眼だ。
「三度は訊かない。貴様は誰だ」
「ディアナの半身だよ。来世の誓いを立てた永遠の恋人、ギルバートだ」
誇らしげに左手の甲を掲げながら薄ら笑いを浮かべて一歩近づこうとするのを、抜き去った剣で牽制する。
背後でDが小さく息を呑む。
「アル、やめろ。お前では敵わぬ」
背に縋る手は震えていたが、声には出さない辺りがさすがと言うか何と言うか。
「…どういうこと?」
「本当にギルバートならば、お前は孫弟子にあたる」
「?ってことは、Dの前世の師匠で、こいつも転生を…?じゃあ恋人がどうとかは…?」
「ごちゃごちゃうるさいな!ゴキブリの様な貴様は、さっさと、あたしのディアナから、離れろ!」
薙ぎ払う仕草をしただけなのに、体が横に吹き飛んだ。
「アルバート!!」
Dの悲鳴のおかげで意識を手放すこと無く立ち上がる。
「その魔力は…?!」
「ディアナ、貴女を求めて彷徨う間に身に着けたのだ」
「では、その瞳は…!」
会話に気を取られている隙にDに近づくと、その体は雨に濡れた猫のように小さく震えていた。
「瞳…?あたしの瞳がどうしたと言うのだ?」
Dの肩を抱き寄せながら、相手の目の前に剣をかざす。
僕には自身の黒い瞳が、男にはそいつの瞳が見えるように。
「ミドリ…」
映った色に明らかな動揺を見せる。
「なぜ貴方の瞳は翠に変わった…?私のギルバートは琥珀色だったはずなのに」
目に見えてブルブルと大きく震え出す。
「ミドリ…あたしの眼は、ミドリ…」
「そしてなぜ、貴方は自分の事を『あたし』と言う?」
「あたしは…あたしは……」
大きくぶるぶると身を震わせながら、両手を差し出してきた。
「魔力、緑の瞳、そして自身を『あたし』と呼ぶ、私に所縁のある人物に一人だけ心当たりがある」
「ディアナ…あたしは…」
今にも泣きだしそうに歪む顔、紡がれかけた言葉はしかし、にべもなく遮られる。
「リリー」
誤字・脱字・意味の通じない表現等ありましたら、そっと教えていただければ幸いです。