4:魔女と剣
翌朝、ちょっとした違和感に気付く。
Dの顔色が冴えない。
そう言えばDは朝に弱かった。
なのに昨日はすっきりとした顔をしていたから、朝弱いのは老婆に見せるための演技だと思っていた。
でも、少女の姿の今朝もフラフラと食卓に着く。
「眠れなかったの?」
スープをよそいながら訊ねた。
「気にするな。いつもの事だ」
コップの水を呷り、ふーっと息を吐く。
「いつも?じゃあ一昨日の夜は?」
代わり映えのしない朝食に、軽い自己嫌悪。
そんなこと気にも留めないDは、パンを一口大に千切りちょっと考える。
「ふむ?そう言えば、珍しく良く寝た、かな?」
「ひょっとして僕と一緒に寝たから?」
「果たしてそうかな?」
僕の願望の入った思いつきは、意地悪な笑みであっさりと否定される。
「分からないよ?今夜も試してみる?」
「いや、遠慮する。誰かと寝ることに慣れるわけにはいかない」
食い下がった提案も、あっさりと却下された。
「なんだそりゃ!」
「…時間は大丈夫なのか?」
いつものように学校を持ち出される。
「まずい!」
「気を付けて行くんだぞ!」
飛び出した僕の背に、Dのまじないの言葉が投げかけられた。
家に帰ると庭に出るよう促された。
「手解きをして進ぜよう」
木剣を手渡されたかと思うと、前触れもなく切り込まれる。
驚いて正面から受け止めたら、手がジーンと痺れた。
「いきなり、何?!」
「うむ。私の不眠を心配してくれたろう?」
間合いを取り、構えるよう目顔で催促してくる。
「それで、これ?」
「そう、運動すれば疲れて眠れる!」
「…なる程、そう来ますか」
進路を決めたのは昨日で、カリキュラム再編の関係で剣術はまだ先の話だった。
なのに、これ。
覚悟を決めて何度か受け止めるが…無茶振りにも程がある!
「ふむ…やはり坊やには早すぎたか」
手応えの無さにようやく気付いたのか、それとも飽きたのか。
「まずは基礎からだな」
至極もっともらしい顔で頷いているが、何が分かったというのだろう。
ドッと襲ってくる疲労感を堪える。
「なんだかなぁ」
「そう情けない声を出すな。暫くは素振りに付き合ってやるから」
隣に並んで足を前後に開き、頭上に剣を構えた。
見よう見まねで構えたのを横目で確認し、腰の前まで鋭く振り下ろす。
遅れて、同じくらいの勢いで振り下ろすと、剣は地面に突き刺さった。
ふっと鼻で笑われて、かーっと頭に血が上る。
もう一度構え直して振り下ろした。
臍の下で失速し、2~3度上下する。
「…まずはこれが課題だな」
晩御飯はDが用意してくれていた。
明日からの訓練は、食事の下ごしらえの後にしよう、無言で意見は一致した。
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