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魔女は黒髪がお好き  作者: 周
3/22

2:魔女の本体

さくさく、さらさらと進める予定です。

「僕の幸せ」についてベッドの中でうつらうつら考えていたからだろう、掠れた悲鳴が微かに聞こえたのは。

「D?どうしたの?」

慌てて駆けつけた僕を鍵付きの扉が阻む。

「…何でもない。入って来るな!」

部屋の中から返ってきたのは、いつものDよりも高く細い声。

「?!D?Dだよね?その声は…?」

不審に思い、扉を前後に揺すりながら訊ねる。

「ね、寝起きだからだ!」

それでは説明がつかない、その声はまるで…。

「ごめん、入るよ!」

満身の力を込めて扉を蹴破った。


目に飛び込んできたのは、月光を紡いだような銀に輝く長い髪に覆われた小さな背中。


「…え?」

余りに想定外な光景に、言葉を失う。

「見るな!出て行け!!」

背中越しに叫ぶのは確かに先程からのDのものだが、扉を挟まずに聞くそれは、まるで少女の声の様で。

「…D…なの?縮んだ…?」

「んな訳あるか!」

がばりと顔を上げ激しく突っ込まれる。


あ、Dだ。


何かを訊く前に、その赤い瞳に光る物を見付けた。

「泣いていたの?」

ためらいも無く近付く。

「来るな!!」

激しく拒絶されたが、それに構わずそっと頬に手を添える。

「怖い夢でも見たの?」

自分でもびっくりするくらい優しい物言いで問いかけた。

「子ども扱いするな」

憮然とした言い方なのに、美少女と言っても差し支えない整った顔立ちの為に、拗ねた様すら愛らしく見える。

「だって…同じ年くらい、だよね?」

遠慮がちな質問に解は与えられなかった。

「…もう寝ろ。私は大丈夫だ」

「一緒に寝る?」

とっさに口をついた僕の言葉に詰まったのは一瞬の事で。

「何をませた事を!男女七歳にして席を同じうせず、だ!バカ者!!」

一喝された。

「本当に大丈夫?」

瞳の中を探ったらついと逸らされ、これ以上の問答は無用とばかりに言い放たれる。

「…大丈夫だ」

「…そう…」

立ち去る背中越しにかすかな溜息が聞こえた。

弱々しいDなど放って置けるはずが無い。

わずか8年の人生を振り返り、この場合どのように対処するべきか、フル回転で考えた。

その結論は…


「一緒にベッドに入らなければ良い?」


大荷物を抱えて引き返してきた僕を、訝しげにしかめられた顔が出迎えた。

「や、さっきのはそういう意味ではなく…」

珍しくうろたえるDに構わず、もそもそとベッド脇にラグを敷き毛布に包まる。

「って、話は皆まで聞け!」

突っ込みを入れてきた左手を掴み、できるだけ有無を言わさぬ凛とした口調を心がける。

「何もしないから。手を繋ぐだけ…ここに寝かせて」

真剣な想いが伝わったのか、

「…今日だけだぞ」

不承不承だが受け入れてくれた。

嬉しくて笑いながらベッドに頭を預ける。


「優しいんだな」


呟かれた言葉に目を丸くする。

その目をふっと細めて訂正を入れた。

「違うよ。これは昔、Dがしてくれたことだよ」

「そうだったかな」

「うん」

しばしの沈黙。

でもお互いにまだ寝ていないことは分かった。

掴んだ左手を見詰めながら呼びかける。

「D」

 薄闇でもDの手は白く、小指の付け根はさらに白かった。

 まるで指輪をしているように。

 ふと自分の小指にも日焼けをしない部分があることに気付いたが、Dの気だるげなでも先を促す応えに、元々聞きたかった質問へと意識が向かう。

「本当はいくつなの?いつもの姿は?」

「いつものはまやかしだ。年は設定年齢と公式年齢とあるが、どちらを聞きたい?」

「ふざけないで」

顔を上げ少し睨んだら、怯むことのない静かな赤い瞳が答える。

「…この体は10歳だな」

「ずーっと10歳なの?」

「…もう寝ろ」

「教えて。10歳のままなの?」

話を逸らされそうになったので、引き戻すために手を強く握る。

「アル坊の『なぜなに期』は、もう終わったと思ったが?」

「茶化さずに教えて」

自分でもびっくりする位、低い声が出た。

諦めたような吐息の後、逆に問い返される。


「それ以上の質問には今後一切答えないが良いか?」


正直、聞きたい謎は山ほどあったが、取りあえず引き下がることにした。

「…うん、分かった」

神妙に頷くのを確認してようやく答えが返さる。

「人並みに成長する」

「僕と一緒に…?」

「あぁ」

それを聞いて、何故だかすごく嬉しくなる。

きっと満面の笑顔だったのだろう、苦笑するDは呆れていた。

「なんだそりゃ」

自分でもどうしてなのかは分からない。

しかし、今夜の最大の収穫に思えて仕方が無かった。

「さ、明日も早い。もう寝ろ」

なだめるように右手で黒髪を梳かれる。

「うん」

今度は素直に頷くことが出来た。


誤字・脱字・意味の通じない表現等ございましたら、こっそりと教えていただければ幸いです。

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