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魔女は黒髪がお好き  作者: 周
20/22

番外3:茶色のテリア

番外編の過去話はこれで最後です。



“みんな同じ、みんな大好き、みんな一緒”



 しがない農家の三男坊は、自由で平等と博愛を体現していた。

 長男は跡取りで、次男は長男の補佐として予備として。

 じゃあ三男の役割は?

 貧乏子沢山の下の子守りと、手っ取り早い労働力、又は出稼ぎ要員。

 家からの期待もプレッシャーもない代わりに、雑用係よろしく些事をこなし、弟妹の面倒を見るついでに近所の子どもたちも纏め上げ、自らが諍いの種にならぬ様みなを平等に扱い、怪我でもさせたら何かと責められる立ち位置だから、自然と誰かれ構わず庇って自分が怪我を引き受けて。



 子どもの頃の習慣は、騎士としてある程度功績を上げて僅かばかりの部下が出来た後も引き摺って。

 挙句の果てに職業上、致命的な負傷をする羽目に。

 それでも目の前で人が命を落とすよりもマシと思ってしまう辺り、自己満足なのかお人好しなのか。だから決して生意気な部下に恩を売って懐柔するために庇った訳ではなく、相手が誰でも味方ならすべからく庇ったと思う。

 世の中、嫌な奴も居たけれど、みんな同じくらい大好きで、誰かを特別だなんて選ぶことなどできなくて。

 お陰様で、渡る世間に鬼は無し。

 上司にも同僚にも部下にも恵まれて、傷病騎士になっても心を砕いてくれる人が居て、国にとっての要人村に、警護のためなのか監視のためなのか駐留することに。



 村では、昔取った杵柄で子どもを集めてガキ大将。

 その子どもたちの中に毛色の違った少女が一人。

 どう見ても年頃の娘なのに、子どもと一緒になって泥んこまみれになっている。

 かと思えば、監視役よろしく集団を睥睨して安全を確保している。

 気付けば子ども達はその娘に任せて、自分は彼女だけを見ていた。

 そうして思い知らされる。

 本物の指導者とはかくあるべきであると。

 彼女は子どもたちに寄り添い共感はするが、過剰に感情移入はしない。

 夢中になる部分と冷めた部分を調和させて自身の中に合わせ持っている。

 自分のように責任ある立場を捨てて身を危険に晒すことなく、集団をまとめ最善の状態を維持することを最優先させる。意識することなく、当たり前のこととして状況を随時判断し、呼吸をするように自然に適切な対処を選択してゆく。

 生まれながらにしての素質なのか、教育の賜物なのか、またはその両方なのかは分からないが、自分が指揮官としてどれだけお話しにならないレベルであった事か。

 そもそも担うべき役割が違ったのか。三男の自分は鶏の頭を目指しても牛の尻尾がお似合いということか。

 ずーっと外面そとづらの良さに取り繕われていた内面ないめんに入り込んでアレコレと思索にふけっていると、今まで誰も触れた事のない自分の一番奥の柔らかい所に、芽吹いている種を見付けた。

 双葉は見る見るうちに成長し、美しい花を咲かせ、そっと囁いた。



『彼女ガ好キ』



 慌てて今まで掲げていた偽善のタテマエを引っ張り出しても時すでに遅し。



“彼女以外はみんな同じ、彼女が大好き、彼女と居たい”



 書き換えられていた。



 あとはもう、自分は彼女のしもべというか犬というか、彼女に夢中で彼女を手に入れることに腐心して。

 想いが通じても添い遂げられない事は分かっていたのに、いざ彼女に告げられると切なさは半端無く、彼女に持ちかけられた誓いに一も二も無く縋った。



 必ず迎えに行くから、待っていて欲しい。



 自分は、時も越えて主を探し彷徨う犬になる。



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