1:魔女の生態
初めての投稿で手探り状態です。
見苦しくないよう努めたいと思いますが、暖かい目で見ていただけたら幸いです。
魔女は寝起きが悪い。
黒いフェルトのマントにすっぽりと覆われた体は折れ曲がり、白髪に縁取られた目深に被ったフードからわずかに覗く鼻と顎は三日月の両端の様だ。時折覗く瞳は赤く、眉間に揺れる涙型の石も紅い。
その姿でよろよろと部屋から出て来て、食卓の椅子に着くまでにあちこちにぶつかる。
威厳も何もあったものではない。
肩をすくめながら、伸び上って朝食を机に並べた。
魔女の前にはパンとサラダとスープ、僕の前にはそれにベーコン添えの目玉焼きと牛乳を追加したもの。
「アル坊や、今日のドレッシングは何?」
見た目の割に張りのある低い声が訊ねてくる。
「オリーブオイルとビネガーと塩と胡椒とバジルを少々」
胡椒と~の辺りでサラダの上にミルをかざし、ゴリゴリと挽きかける。
「坊やの作るご飯は美味しいな」
まだかけている横からフォークでつつく。
「D!」
名前を呼ばれて鷹揚に手を引っ込めた。
追加しよう、魔女は行儀も悪い。
そして、料理も下手だ。
と言うか大雑把過ぎて、しょっぱいか味がしないか何かに挑戦したか、極端な味の物しか出来上がらない。
その割に、美味しい物には目が無い。
必然的に幼い頃から僕が料理担当になった。
仕込まれた、と言うより拾われて養われている者として、自分にできる恩返しがしたかったから。
そう僕は魔女に拾われた。
正確には魔女の家の前に捨てられたのだ。
おくるみには身元を示すものは一切無く、ただ「アルバート」と走り書きされたメモがあっただけ、らしい。
名前を付け半年ほど育み、魔女の元に捨てる。
意味が分からない。
何故って、魔女は赤子の生き血をすする忌むべき存在と言われていたから。
そこに捨てるということは、託すのではなく供物として捧げるということ。
しかし、添えられるべき願いは無かったらしい。
魔女が隠していなければ、だけど。
幸いにも僕を拾った魔女「D」は、菜食主義だった。
「黒猫の代りにくれたのだ、きっと」
赤い瞳を細めて魔女は笑う。
確かに僕の髪と瞳は、この辺りでは珍しい黒だけど。
お陰様で奇妙な同居は今年で8年目を迎えた。
遠い眼をした僕を尻目に、スープの中の肉片を僕の器へと移す。
「D!それぐらい食べろよ」
「良いではないか、育ち盛りの君に進ぜよう!」
「良くない!僕の作った物にケチをつけるの?!」
「美味しいです!アルバートの作る物は何でも美味しいなぁ!」
嘘くさい言葉。
「ったく、僕が来るまでどうしていたのさ?」
呆れて目を細めると、とぼけたように話を逸らす。
「お、そろそろ学校へ行くお時間では?」
馬鹿にした言い回しに軽く溜息が出る。
「あー、幸せが逃げるぞ」
すかさず揶揄が飛ぶ。
「…逃げるほどの幸せなんて無いよ」
ぽつりと言うと、
「それなら、これから自分で掴み取れば良い」
返ってきたのは、珍しく真面目な口調。
僕の幸せ、口の中で転がすように呟いてみた。
「美味いビネガーのあるうち、さ」
彼女は時々良く分からない事を言う。
「D~!」
「ほらほら、早くしないと遅刻するぞ」
はっと窓を見ると、陽の高さは確かにギリギリな時間であることを告げていた。
片付けもそこそこに、僕は学校へ向かう。
追加しよう、魔女は人を煙に巻くのが好き、らしい。
誤字・脱字・意味の通じない表現等、不具合ありましたら、そっと教えていただければ嬉しいです(*^^*)