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魔女は黒髪がお好き  作者: 周
19/22

番外2:翠の眼

R15

残酷表現があります。

人によっては不快に思われる表現が含まれています。

生まれた時から3人一緒だった。

この村では珍しくも無い、良く似た子どもたち。

その中の一人は違う物であることは直ぐに分かった。

なぜなら彼は男の子、私とディアナは同じ物。

ずーっと一緒だった。

何をするにも、何処へ行くにも。

これからもずっと一緒だと信じて疑わなかった。

愛しいディアナ。

彼女と私はその魔力ゆえに分けられた人間、元は同じ魂、対の相手。

年齢を重ね、同じ行動は取らなくなっても、それは異なる性質を分け合ったからに違いない。

(よう)のディアナと、(いん)の私。

太陽の下、駆け回るディアナを書庫の窓から眺めていた。


イツマデモ、イッショダヨ。


私が書庫の隠し戸棚から興味深い禁呪の書を見付け、夢中になって読み耽っている間に、歯車が狂い始める。

何日ぶりかの息抜きに窓をのぞけば、恥じらうディアナの姿。

今まで見たことも無い笑顔、熱のこもった視線。

相手も同じような熱い目で見返していた。

あの笑顔は私の物!

ディアナと私は同じ物なのだから。

あの視線の先の相手は私のはず!!

ディアナと私は同じ魂なのだから。

私を見て、私を見て、私だけを見て!!

ディアナと私、何が違うと言うの!

お腹の底から突き上げてくるどす黒い感情。

今思えば、どちらに嫉妬をし、どちらに執着していたのか……

そして私は決定的な場面を目撃する。

部屋のベッドで睦みあう二人。

頭の中の何かが振り切れた。

理性・常識、あらゆる人間性と言われる物をかなぐり捨て、衝動に突き動かされるまま窓を破り部屋に飛び込む。

私ですら触れた事のないディアナに触れた!

私に触れた事のないその手で、ディアナだけを求める。

どちらかが消えれば、私を見てくれる。

ディアナと私は同じ物なのだから。

なのに何?その誓いの指輪!!

頭の毛が逆立った。

男がディアナを背に庇おうとする気配がある。

私がディアナを傷つけることなどあり得ないのに!

何も分かっていない、この人は私の事を何も分かってくれていない!

ディアナと私は同じ物なのに!!

直後、男が炎に包まれる。

生意気な言葉を残して。

殊勝にもディアナが復活の呪文を唱えようとする。

意味無いのに。

来世?そんなことさせない。

どんな手を使ってでも、二人を逢わせない!

背に、息を呑む誰かが居る。

この気配は総領。

あぁ、認めて下さい。

私は今、ディアナを超えました。

焼けつく腹。

おかしいな、何を間違ったのだろう。

でも、構わない。

永遠に二人の出会いを阻止することに、変更は無いのだから。

「我が魂よ永遠に!」

 あぁディアナ、愛しいディアナ。

 私が必ず見付けるから。


 イツマデモ、イッショダヨ。



 ――ひどく時間が経った気がする。

 自分でかけた禁呪の匂いを頼りに、魂のままフラフラとディアナを探す。

 色褪せぬ執着は目にした光景で再燃する。

 微笑む先に男が居る!

 あの男、私を差し置いて、またディアナの前に居る!!

 返してもらおう、ディアナを!

 握りつぶした魂はしかし、あの男ではなかった。

 驚きに身開かれるディアナを前に、窓から覗いたあの光景がフラッシュバックする。

 ディアナに触れたい!

激しい衝撃が私を弾く。

目覚めたばかりの私は、眠りに着く直前の興奮をまだ引き摺っていたのだろうか。

沸点に達した怒りと絶望がディアナを切り裂いた。

何てことを、私は何てことを!!

発作的に男の手で、男の心臓を抉り出し、再び魂を解放する。

眠りに就く直前、血まみれのディアナから赤子が生まれるのが見えた。

あぁ、私は何てことをディアナにしてしまったのだろう。


次は間違えない。


次こそはディアナと一つになろう。



女の腹から生まれるのも悪くない。

魂に負荷がかからないから。

育つのに時間がかかり過ぎるのが難点だがまぁ良い、時間は永遠にある。

成人を迎え、前の記憶を頼りにディアナを見に行った。

同じ場所に居た。

以前より人の出入りを感じない。

良い傾向だ。

あの男も気付いてすらいないだろう。

故郷を遠く離れたこの森の奥にディアナがひっそりと住んでいるなどと。

問題のあの男、転生しているのだろうか。

「来世の誓い」がどれだけの効力を持っているのか。

今回は肉体を持って彷徨う。

男を探して。

時間はかかったが、直ぐに分かった。

同じ髪、同じ瞳、何よりも小指に光る金の指輪!

故郷とディアナの中間地点に居ることも、怒りと焦りに拍車をかける。

我知らず、力が迸る。

哀れな少年は、細かな肉片となって草原を朱に染めた。

又もや私はしくじった。

この力をもってすれば、あの体を手に入れ、ディアナに受け入れてもらえたかも知れないのに!


次こそは違えない。


次こそは、ディアナと一つに…



人の寿命は思ったよりも長いものだと知った。

故郷の村には90を超えるババ様が居たのだから、あり得ない事ではなかったが、肉体を脱ぎ去るかどうかで迷っているうちに、気付けば男の次の転生が近かった。



前回の地点を鑑みて、当たりを付けた村を探し回れば、あの特徴を有した幼子。

今度は慎重に…

僥倖が訪れる!!

地裂け、山崩れ、地上のあらゆる物が傾頽し、圧死者多数。

大災害である。

老体は呆気無く絶命し、目の前には瀕死の幼児。

大きな負担をかけずに、易々と移り変わることが出来た。

今度こそ、慎重に。

容易かったとは言え、生まれ持った魂と違う物が入った肉体は、何年にも渡って抵抗する。

得意ではなかった治癒の薬草の知識を総動員して、回復と融合を図る。

気付けば成人目前。

ならば、感動の再会を演出しようではないか。

時間はある。

あの男はあと2~30年は生まれられないのだから。

そして、その時にはもう遅い。

「来世の誓い」は無効になっている!

悠然と機が熟すのを待てば良い。

ディアナと出会ったあの時の姿になって、逢いに行こう。

今度こそ、今度こそ一つになろう、愛しいディアナ。



そして君に逢いに行く――


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