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魔女は黒髪がお好き  作者: 周
18/22

番外1:絶望の始まり

R15

残酷描写を含みます。

人によっては不快に感じる表現を含みます。

窓から飛び込んできた緑の閃光に引き裂かれた、決して一線を越えることの無い恋人との甘い時間。

身を離した二人の小指に光る金の指輪に気付き、さらに憎しみの炎が吹き荒れる彼女の翠玉の瞳。

燃え上がる恋人。

「必ず迎えに行くから、待っていて…」

言い残し燃え尽きる。

消火も治癒も追いつかなかった。

ならばせめて復活を…

「諦めろ。そいつの魂は冥王の元へ行った。来世に備えてな」

ならば来世で出会うまで。

「…そんなことはさせぬ…お前を現世に縫いつけてやる!」

胸に当たる衝撃、注ぎ込まれる魔力。

身の内から書き換えられていくおぞましい感覚。

みるみる色が抜けていく髪。

その様を見ながら狂ったように耳障りな高笑いが上がる。

「私が生きている限り、お前に来世は無い!永遠に生まれ続けるが良い!!」

部屋に駆け込んできたのは総領のみ。

ベッドの上で呆然とする私と戸を背にして笑い続ける彼女と人型の消し炭を見て息を呑む。

「一体、何が…?」

身を捩り総領の方を向いた彼女が少女のように笑う。

「あぁ、総領!!褒めて下さい、次期総領候補にふさわしいこの強大な魔力を!!」

「そうか…全てはお前の所業…」

地を這うような低い声に嬉しそうに頷いて、一歩総領に近づいた彼女の体が強張る。

総領の手には一振りの剣。

自分の胸元と総領を目比べた後、ゆっくりとぎこちない仕草で私の方へ向いた。

真一文字に切り裂かれた腹から血を流しながら。

そして、彼女の顔が奇妙に歪んだ。

苦痛に、ではなく、壮絶な笑顔に。

声も出せずに竦む私に目を据えたまま、右手を自身の胸へ突き刺した。

生々しく脈動する心臓を抉り出し、高らかに宣言する。

「我が魂よ永遠に!」

異変を察して駆け寄ろうとした総領よりも早く、その心臓を握りつぶし絶命する。

崩れ落ちた体はすでにただの抜け殻。

邪悪な魂を捕えるための魔具など携えていない総領は、抜け出したそれをただ見送った。

体の底から振り絞る悲鳴が自分の喉からほとばしる。

痛ましい者に向ける目で私を見下ろした総領の口から出たのはしかし、責を果たす言葉。

「禁呪に染まりし者よ、掟に従い村を去れ」

泣きぬれた瞳を向けると、総領もまた泣いていた。


三日三晩走り抜けた愛馬は、森の中の草地に私が降りるのを確認し、どうと地に倒れる。

血の泡を吹き、息絶えていた。

「ここまで、御苦労であった。ありがとう」

そっとたてがみを梳き、瞳を閉じさせる。

ここ数日で、立て続けに何もかもを失った。

最愛の恋人、双子の姉妹のようだった幼馴染、愛馬、そして故郷。

少し疲れた。

徐々に温もりを失ってゆく愛馬の体に凭れ、眠りたいと思った。

実際、瞳を閉じていた。

自身の体内に急激に膨れ上がる何かを感じ重い瞼をあげる。

明らかに膨らんだ腹。

その後に続く体を引き裂かれる痛み。

荒い息の中、足の付け根には胎内から生まれた物。

震える腕で抱き上げると、血塗られた白髪の赤子だった。

紙のように白い色素の極端に少ないその体がみるみる朱に染まり、産声を上げた。

本能的に胸をはだけ乳首を吸わせると、生まれたばかりとは思えない勢いで吸いつく。

役目を終えたかのように、自分の体が力を失ってゆく。

狭くなってゆく視野。

定まらない眼。

二・三度、瞬きをして、視界が肌色に占拠される。

口には何かが含まれていた。

驚き目を上げると、私を見下ろしていたのは、赤い瞳を見開いた、私。

そこで脳裏に彼女の呪いの言葉が蘇る。

『お前に来世は無い!永遠に生まれ続けるが良い!!』

総領が言っていた禁呪の正体が今、理解できた。

絶望の叫びを絞り出したつもりが、赤子のか細い鳴き声にしかならなかった。

その声は、うっそうと生い茂る木々に吸いこまれて行く。


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