13:魔女に囁く
アル視点に戻ります。
「街で一緒に暮らしませんか」
寄宿舎に入る時には言えなかった言葉がようやく口からこぼれる。
腕の中のDがピクリと反応する。
「離せ、アル」
手を突っ張り離れようとするので、閉じ込める腕に力を込める。
「……離してくれ」
僕の胸に埋められた間から、くぐもった声が上がった。
「離さないと言ったら?」
腕の檻をさらに狭めて、Dの髪に口付ける。
「私には来世を誓った恋人が居る」
紡がれた言葉の残酷さについ力が抜けた。
その隙を逃さずDが顔を上げる。
「250年の期限まであと6年ある。私はここで待たねばならない」
穏やかな口調、全てを決めた顔。
「でも、D……リリーが奪った体は……」
「言うな、アル」
ためらい勝ちに口を出せば、身を離しながら凛と遮られた。
「私もその可能性を考えなくもない。ここに訪れた時のリリーは、瞳の色まで初めて会った時のギルバートに酷似していたのだから。いや『似ている』ではなく、混乱する程にそのままの姿であった。左手の小指まで……」
弱くなっていく語尾を捕まえる。
「小指…?」
「来世の誓いをたてた証は左の小指に、ある」
そう言って甲を向けて掲げられた左手の小指には、滑らかな色白の肌を凌駕するほどの白いリングが、火傷や傷跡ましてや日焼け痕とも違う白さで以って印されていた。
示された事実よりもその仕草に既視感を覚え、手の甲とDの顔を交互に凝視する。
視線に気付いたDにも心当たりがあるのか、沈痛な面持ちを伏せた。
「……あやつの小指にも…あった。だが!良くは見ていなかったが…あれは、もっと薄かったし、意図的に日焼けしたのかも知れない!」
「やっぱり、あいつが……?」
「違う!私のバートが二度も不覚を取るはずがない!!」
『ワタシノばーと』
その言葉は物理的な衝撃を伴って胸を刺し貫く。
と、同時に手に焼けつくような熱を感じた。
昔から自分にある痣の事を思い出し、縋る思いで確認してみると、以前より色の抜けたそれ……
「D?来世の誓いってどうしたら果たされるの?」
自分の口から、思ったよりも間の抜けた声が出る。
話の展開についていけないDはきょとんとした顔を向けてきた。
「誓いを立てた恋人達が出会い、想いを通わせ、結ばれれば良いはずだが……?」
「何かお知らせはあるのかな?神の祝福とか?」
「さあ?それは知らぬが、どうしたのだ?急に」
「これ、どう思う?」
左手を見せた僕の顔は多分、泣き笑いだったと思う。
誤字・脱字・意味の通じない表現等ありましたら、そっと教えていただければ幸いです。




