12:魔女の独白③
ディアナ視点第3弾です。
残酷又は不快な内容を含みます。
この章の為に残酷タグと15歳規制をかけました。
ご了承ください。
「産み直し、それはそのままを意味する。死期が近づくと自分を産むのだ。
通常ならば寿命が尽きる十年ほど前に産み育て、死ぬと同時に記憶が受け継がれる。
病死ならば死亡が不可避となった時、事故などによる不慮の死は意識を手放す直前に産む。
私がリリーに140年前に殺されたというのは聞いていたな?あの時、遺骸から生まれるのを、たまたま訪れた村人に目撃されてな。以降、魔女と呼ばれるようになった。それまでは『極端に色素の薄い白魔道師』で通していたのだが。
そして、リリーが自身にかけた禁呪『永遠の魂』とは、全てを備えた魂だけの存在。
生ある物の体を奪い、なり変わることのできる力を持つ。
ただし瞳にだけ魂の本性が現れるようだ。140年前、私と雑談をしていた人の良い木こりの体を奪った時、みるみる瞳の色が変わった。今回もギルバートに似た外見の男を捕まえたようだが、瞳の色だけが変化した。本人は気付いていなかったみたいだが、な」
お茶を飲もうと目を逸らし手を離そうとしたが、阻まれる。
「アル?」
覗き込んでくる瞳は、言葉を選んでいるのか、私の内を探ろうとしているのか。
沈黙が息苦しい。
包み込む手は変わらず温かいから、忌諱されているわけではなさそうだが。
ようやくアルが訊き辛そうに口を開く。
「……リリーは、どうしてDにそんな仕打ちをしたのだろう……?」
「『何故』か……250年間ずっと考えない日は無かった。最後に訊けばよかったのだろうか、私は」
微笑みながら訊き返していた。
そんな私を見てアルは、どうしたものか悲しそうに眉根を寄せる。
「先にも言ったが仲は良かった。姉妹のように。どこで間違えたのか分からぬ。しかし、リリーの内で私に対する何かが執着に変わった。恐らくギルバートに出会ってから……
リリーの最後の言葉、あれが全てなのかも知れぬ。
『あたしをただ受け入れて!貴女になりたかっただけ!ギルバートになりたかっただけなの!!』
恐らくリリーは……ギルバートを愛していたのだ。
私への執着とギルバートへの想いの狭間で昏迷を深めて行き、あの日…私とギルバートが『来世の誓い』を立てたと知って錯乱した。
想いの深さゆえにギルバートを一瞬で消し炭にし、私を現世に縛り付けるために禁呪を掛け、全てを手に入れる術を求めて自らを永遠の魂に変えた。
――それが私の推測だが結論だ」
毅然と言い切ったつもりであった。
しかし私を見つめるアルの瞳が切なそうに揺れ、励ますように支えるように包んでくれていた手が解かれる。
その手は真っ直ぐに私の両頬包み、親指が目元を拭ってくれた。
「くっ」
堪え切れず喉を突く嗚咽。
頭に回された手に引き寄せられ、アルの胸に包まれる。
言葉を紡ごうとして吸われた二人の息は、そのまま吐き出された。
話さなければならない事はまだあるのかも知れないが、今はただこうして寄り添っていたかった。