11:魔女の独白②
ディアナ視点、その②です。
午前中の依頼を片付けて頂いた昼食も美味しかった。
坊やは本当に良いお嫁さんになれるだろう。
思っただけのつもりだったが声に出していたらしい、意味深に笑われた。
その笑顔はなんだ、生意気な。
「さてさて、何処まで話した?」
「ギルバートがテリア犬のように愛らしかった所まで」
あっという間に不機嫌な気配に変わる。先程までの頬笑みは何処へやら、だ。いや、口元にだけ笑みを残している分、なんだか怖い。
「愛らしい、とは言っていなかったと思うが?」
「顔がそう言っていたよ?」
きらりと光る黒い瞳、ずいぶん険呑な物腰だ。
「なんとなく刺を感じるが、気のせいか?」
「気のせいデスヨ」
つんと澄まして口だけが弧を描く。どこで育て方を間違ったのだろうか…
「ならば、良いが…」
ズズーっと、音を立ててお茶を啜る。
今日はやたらと喉が渇く。
午前中に時間を稼いだからか、話す内容を少し整理して話せそうだ。
「もともと体を動かすのが好きだった私は、駐在の家に入り浸った。そして、いつの間にかお互いを憎からず思うようになっていった……
先に話したように、村は閉鎖的で私は総領候補だ。
結婚は当人ではなく、村の意思で決まる。血を濃くし過ぎず、より強い魔力を得るために、綿密に編まれていた。
生まれた時に組まれた私の相手は恐らくマークであったろう。又は彼に次ぐ魔力を持つ男子…好き・嫌いで伴侶を決める自由など与えられていなかったのだ。
そのような村だからであろうか、転生の一種である『来世の誓い』が認められていたのは」
お茶を口に含むタイミングで、坊やが疑問を口にした。
「転生の一種…?」
「そう、基本的に転生の法術は天則を乱す禁呪とされている」
「前に『転生の禁呪に染まった』って言っていた…?」
「良く覚えていたな。まだ、ほんの子どもだった時に話した事なのに」
「忘れるわけがない」
「そうか…
転生には数種類ある。
基本は自然律に従った転生、全てが白紙の状態で人に生まれるかも定かではない魂の循環。
次に、神の慈悲を乞い人に生まれかわる転生、ま、神頼みだな。魔力が関わっていないので、禁じられることも無い。
神頼みに毛の生えた同じ性別で生まれ変わる転生、ここから魔力が込められるので、制限が加わる。
記憶を引き継ぐ転生、容姿を持ち越す転生、全てを持って生まれる転生。
『来世の誓い』とは性別と容姿を引き継ぎ、潜在的に記憶を受け継ぐ、神の祝福に近い発現力の弱い期限付きの転生で、誓約した恋人同士が250年以内に出会って誓いを果たさなければ全てが白紙になる、というものだ。
閉塞感漂う村の恋人たちに唯一許された、来世に賭ける希望だったのだろう。
今生では添い遂げられぬと自覚していた私とギルバートもその希望に縋り、誓いを立てた。
(坊やの眉がピクリと反応したが、ここは無視をした)
宣誓したその日、逆上したリリーによって私にかけられたのが自分を産み直す禁呪であり、リリーが己に使ったのは最も禁忌とされていた、永遠の魂」
一旦言葉を切ると、坊やの喉がコクリと上下した。
机についていた手を取られ、そっと両手で包まれる。
流れ込む優しさと温もり、私の手はひどく冷えていたようだ。
坊や…アルバートは、これからする話しを受け止められるだろうか。
祈るような気持ちで包む手を引き寄せ、その甲に唇を押し当てる。
何も言わずアルバートも反対側に口を近づけてきた。
間近に覗き込んだ瞳は夜空のように澄み切った黒、全てを懐に収められる深い色……意を決し続ける。
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