10:魔女の独白
視点が変わります。そして何話か続きます。
何処から話せば良いか訊ねたら、事も無げに「始めから」と返された。
しかし全てを話すのは難しい…何せ260年分あるのだから。
長くなるぞと牽制しても、やはりさらりと「どうぞ」と促されるだけだった。
坊やの淹れてくれたお茶は美味しい。
右側から発せられる威圧感を意識しながら、優雅に啜ってやった。
いつもは向かいに座るのに、生意気な。
「260年前に生まれた話はしたな?」
坊やが焼いてくれたマフィンに手を伸ばす。
余裕ぶって足を組んでいる坊やが頷いた。
「では、私が村の総領候補であったことは…?」
今度は左右に振られる。
「では、そこから話そうか…
魔道師の村は、その高い能力ゆえに閉鎖的であった。
必然的に血は濃くなる。
いや、意図的に濃くしていたのだろう、より高い能力を得るために。
その村に何代目かの総領候補の一人として私は生まれた。
生まれた時に付けられた名がディアナ、あやつが呼んでいた名だ。
総領の館で育てられたのは三人、私とマークと、そしてリリー。
兄妹と言っても誰も疑わない位に目鼻立ちが似通っていた私たちは、恐らくその血も非常に近しかったのだろう。幼い頃からリリーとは双子のように育った。お互いの区別がつかないほど親密に。性別の違うマークをリリーが遠ざけたのも睦まじさに拍車をかけたのかも知れぬ。
村には王宮より直接遣わされた騎士が一人、駐留していた。
能力の高さを王に買われ、王宮の専属魔道師は村の先鋭で占められていたので、要人警護の名目で派遣されたのだ。
私たちが16になる年、急死した駐在の後任としてやって来たのがギルバートだ。
それまでの駐在は、村人全てを忌まわしい者のように嫌う、陰気な者が多かった。
しかし、ギルバートは違った。
明るく、分け隔てなく、魔術の勉学に偏りがちな村の子供たちに運動と遊びを教えてくれた。
私と子どもたちはすぐに夢中になった。
総領候補では私だけ、だったな。
マークは病弱で、リリーは外よりも書庫に籠もる事を好んだから。
そう言えば、容姿の話をしていなかったか。
私はこの通りだが、マークはアッシュブロンドにグレイの瞳、リリーは…ハニーブロンドで翠玉の瞳、村では色素の薄い者ほど魔力が高かったのだよ。
そして、ギルバートは栗色の髪に琥珀の瞳、茶色のテリア犬のようだった。
……少し休憩を挿まぬか?片付けたい用事もあることだし」
坊やに否やは無かった。
誤字・脱字・意味の通じない表現等ありましたら、こっそり教えていただければ幸いです。