未知との遭遇
「貴様ァ、なめとんのかッ!」
「落ち着きたまえ、山野君」
「何とか言いやがれ!この野郎」
「野郎かどうかは分かりませんよ。何にしても落ち着きたまえよ、君」
「だって課長~、こいつら…」
山野岩男は厳つい顔を情けなくゆがめて古井戸課長を見やった。
古井戸優也と山野岩男の2人は先刻オフィスで仕事をしていた所、UFOに拉致された。
今、目の前には宇宙人らしき生物が2、3匹立っている。
古井戸は彼らを観察した。
宇宙人は小さい。
まるで子供の様な大きさだ。
そして頭が異様に大きく、目と耳もデカい。
黒目がちの瞳をしばたたきもせずジッと前方を見ている。
色は全身灰色で皆素裸だ。
一匹の宇宙人がユラリと揺れた。
「ワレワレハ アヤシイモノデハ アリマセン」
嘘を言うな。
山野は"キレ"た。
「怪しいわーッ!!ボケェ」
山野は声を発した(と思われる)宇宙人の首をつかみ上げた。
宇宙人は「ヴヴ…」と言って呻いた。
「山野君、やめたまえ。苦しんでいる」
山野はすごすごと腕を下ろした。
古井戸は鋭く室内を見回す。
「ふうん、彼らの社会には階級制が感じられるね。この人達は奴隷なのかなァ」
「は?」
「だって山野君、君なら未知の生命体しかも自分の倍近くもの大きさの生物にだよ武器も防御もなしに会見できるかい?」
古井戸は人差し指で眼鏡を押し上げ宇宙人に向かって言った。
「君たちの主人との面会を希望する」
主人は「カシラ」とよばれていた。
それは名前ではなく階級名であるらしかった。
それにしてもこの船(UFO)のカシラは嫌な奴だった。
「キィ」
と言っては部下を殺し、
「キョエ」
と言っては部下を殺した。
暴君である。
カシラが帰った後一匹の宇宙人が
「アノカシラハ トクベツデス ホカノカシラハミナ イイヒト ナノデス」
と、しみじみ呟いた。
「ひどい人だね」
古井戸も小さく呟く。
山野は怒りをあらわにして言った。
「この船にゃ他にカシラはいねーのかよ」
「イマセン イエ イタノデスガ シニマシタ」
「あの暴君に殺されたのだね。それは」
「ちくしょう!なんて奴だ」
古井戸はしばらく何ごとかを考えていたが、やがて顔を上げて言った。
「よし、君らをあの暴君カシラから解放してあげよう」
宇宙人は小さく首をかしげた。
「コロシ ハ イヤデス」
「うん、殺さない。私達が勝手にやる事だから君達も責任は問われない。問われないよね?」
「ハイ」
「決まりだね。こちらの条件は私達を地球に送還すること。どうせ実験は失敗するんだし」
「ナゼ ワカルノ デスカ?」
「だって男同士じゃ生殖はできないんですよね。人間には性別ってものがあるの、知ってます?そりゃ山野君はでかいし私は小さいけどさぁ…私は女じゃないんだから…」
「オオキイモノ ト チイサイモノ デ セイショクスルト オモイ マシタ」
「なんかむかつきますね。それ」
「そ、そんな理由でさらわれたのか。俺」
古井戸と山野は呆れ顔を見合わせて溜め息をついた。
「ナニヲ スル!」
暴君カシラは山野に押さえ込まれ、もがいている。
「うわっ、こいつヌルヌルする!キモチわりいなァ…」
「失礼だよ、山野君。我慢したまえ。うん?もう着いたのかな?」
「ツキマシタ」
「早いね、さすがUFOだ」
「な、なんだよ課長。どこに着いたってんだよ」
古井戸は不敵な笑みを浮かべた。
「エリア51さ。さぁ山野君、暴君カシラにパラシュートをつけるんだ」
「えっ!エリア51ってUFOがよく目撃される…あっパラシュートって、まさか!」
そして暴君カシラはエリア51上空をフワフワと落ちていったのであった。
「次のUFO特集番組が楽しみだね」
古井戸は落ちてゆくパラシュートを見つめて目を細めた。
さてもよく晴れた秋の夕空である。
古井戸と山野の2人は会社に向かって歩いていた。
「今日は仕事できませんでしたね、課長」
古井戸はうん、と生返事をして暮れかかる空を見あげた。
「宇宙人の下克上を手伝っていたなんて、誰も信じちゃくれないだろうね」
星がまたたき始めた夜の空。
ひときわ輝くオレンジ色の閃光が宇宙に向かって飛び出していった。
「山野君、彼らだ」
2人はしばし、夜空を見つめていた。
了
古井戸課長と山野君シリーズ。1作目。