社長はブチギレた。
私は生まれた頃から小さな箱の中にいた。
閉じ込められていたと言うべきだろうか。
この箱の前面はガラス張りになっていて筒抜けだ。
息苦しいサイズの中に押し込まれるだけで嫌なのに。
自分とは全く違う姿の生き物がじろじろと見てくる。
よく見かける生き物は私に毎日代わり映えのしない食事を寄越す。
美味しくはないが食べなければ生きていけないのでそれを食す。
別の個体と思われる生き物は日替わりのようにやってきて私の姿をじっと見つめて、聴き取れもしない言葉を呟いたり、投げかけたりしてくる。
私はそれが恐ろしく顔を床につけて寝たふりをしたり、何をされるか分からない故に笑みを振りまいたりする。
こんな毎日がいつまで続くのだろう?
そう思って生きていたある日、よく見かける生き物が私を箱から出した。
私に向かって何事かを言う。
見たこともない表情をこちらへ向けてきたが、それが恐ろしく私は愛想笑いをするばかりだ。
そして、これまた見たことのない別の生き物がやってきて。
私はそのままそいつに引き渡された。
私は今までの箱とは違う場所に連れてこられた。
大きな場所だったが、私からすればここがどこだか分からないのが恐ろしくて仕方ない。
声をあげるとあの生き物がやってきて背中を撫でる。
何か鳴き声をこちらに向けながら、食べ物と飲み物を差し出した。
それが何日か続いて。
私はようやく自分がこの生き物と生きていかなければならないのを理解した。
同時に本能的に悟った。
ここが終点なのだと。
故に私は媚びを売った。
捨てないでくれ。
殺さないでくれと。
故に私はその生き物の鳴き声を必死に覚えた。
その声が意味するものを苦心しながら理解した。
不思議と。
それをする度にその生き物は私に優しくしてくれた。
だからこそ、私はいつしか自分が媚びを売っていることを忘れていた。
いや、媚びを売ることでしか生きていけないという事実から目を逸らしていたのかもしれない。
どうせ、もうこうして生きるしかないのだ。
ならば、自分が幸せだと思いながら生きるしか――。
*
「いかがでしたか!」
部下の言葉に社長が目を覚ます。
彼の全身は汗にまみれていた。
「ペットの気持ちを体験できる! これをすればより一層、ペットと人の心は近くなって――!」
部下の言葉は最後まで続かなかった。
社長の怒鳴り声が響いたからだ。
「人を不愉快にさせる商品なんて作るな!」
「しかし! この商品は可能な限り生物の気持ちを反映させた――!」
「今すぐに開発を中止するか! それか作り直せ! ペットは人間を好きで好きで仕方ないものなんだ! そして、そう思わせるのが仕事なんだ!」
社長がブチギレたために部下は渋々作り直すほかなかった。
嘘偽りのない商品を。
嘘まみれの商品に、と。




