〝良い趣味している〟
「どうしたの? 佐藤くん」
用心してあたりを見渡す極光に対し、桑原が心配そうな表情で話しかけてくる。
「あー、いや。暴徒化した対戦チームのファンが襲ってこないか、心配なんだよ」
「あーね! 勝率3割くらいのチームに負けちゃったんだもん!」
適当な言い訳が功を奏したようだ。桑原は愛嬌たっぷりに笑い、極光の言うことを信じている。
「つか、近くのカラオケ屋って裏道にあるんだよな」
「うん! というか、腹減らね?」
「あー、球場でたいしたもの食っていねぇしな。桑原は」
チケット代がよほど高かったのか、桑原はかき氷しか食べていない。対して極光はそれなりに食べているので、ここはひとけの多い飯屋に入ってしまったほうが良いだろう。
「だって、チケット代が1万円だよ? ふたり合わせて2万円。ご飯なんて食べられないよ」
「なら、今度はおれが奢るよ。といっても、良い飯屋なんて知らないけど」
「ファミレスで良いよ! とにかくお腹減った!」
「なら、そうしよう」
ふたりはファミレスへ入っていく。そうすると、やはり誰かがふたりに着いてきた。極光はチラッと振り向き、入ってきた者が女子であることを確認する。
(流石に、白昼堂々騒ぎを起こさないとは思うが……)
時刻は9時前。表通りの店に入ったので、あくまでも監視するために彼女たちも着いてきたのだろう。
「なに頼む?」
「ハンバーグセット!!」
「おれはドリンクバーだけで良いや。球場で飯食ったし」
「分かった!!」
店員を呼び、注文を済ませる。ここまではなんら問題のないデート。問題は……おそらくこの店を出たあたりから始まるだろう。
*
「それにしても、ありがとな。2万円も使わせちまって」
「お気になさらず~! 佐藤くんが喜んでくれるなら、安いくらいだよ!」
店を出て、カラオケ店へと向かう。その店は裏道にあり、襲ってくださいと言わんばかりの位置にある。本当はもう解散し、極光だけで対処したほうが良いのだが、桑原の表情を見る限りまだまだ満足はしていなさそうである。桑原がイヨウ・ファミリーの話を知っている以上、ここは危険を犯してでも行くしかない。
そんな最中、
目の前の一般自動車が、強力な風力とともに、へし曲がりながら飛び跳ねていった。
「え、え?」
桑原は突然の事態に慌てふためく。しかし、極光は冷静そのものだった。
「桑原、おれから離れるな。変に逃げると、連中はオマエを拉致するぞ」
「ど、どういうこと──うわぁ!?」
今度は電柱がへし折れ、極光と桑原の元に落ちてきそうになった。まともにくらったら確実に死ぬので、極光は〝羽〟をマユのように広げてへし折れたそれをガードした。
「コソコソ隠れて念動力使うとは、良い趣味しているじゃねぇか……!!」
ほとんど確実に、イヨウ・ファミリーの連中の仕業だろう。しかも極光が言ったように、姿形を見せてくれない。極光の能力の可動領域では、隠れている敵を探すことはできないので、このままではジリ貧である。
「だ、誰がやったの?」
「訊いていただろ? イヨウ・ファミリーだよ。この念動力の出力的に、推定ランクはAAだな」
「え、やばくね?」
「やばいよ。しかも隠れてやがるから、対処もできない」
「な、なら。あたしが探そうか?」
「探せるのか?」
「あたしの能力はランクBの〝千里眼〟だから、天空から探せるはず」