いざ人生初デートへ
染めたのだろう銀に近い髪、セミロングヘア、かなりの巨乳、愛嬌あふれる顔立ち。
「なんでもねぇよ。桑原菜奈」
「なんで、フルネームで呼ぶのさ!」
「なんだって良いだろ。つか、オマエに知られると面倒臭い。分かったらあっち行け」
桑原は情報屋、基、なんでも喋ってしまうことに定評がある。口が軽すぎて、女子たちからも敬遠されるほどだ。
「えーっ、そんな扱いひどくない!?」
「自分の胸に手ぇ当てて考えてみろ。自分がまともか否か」
桑原はわざわざ自分の胸に手を当て始めた。こういう天然なところも、女子から嫌われる理由なのだろうな、と考えてしまった。
「んーっ、分かんない!」
極光はやや苛立つ。「分かんないなら、なおさらあっち行っていろ。こっちは大切な会話しているんだ」
「でもさー、なんか聴こえたよ。イヨウ・ファミリーがどうとかなんとか」
極光は顔を手で覆った。なんでこの女は、妙に耳が良いのか。もはや打算でやっているのではないか。
「ほらーっ! イヨウ・ファミリーと喧嘩するつもりでしょ!?」
佐野が怒鳴る。「声がでけぇんだよ!!」
「そ、そんな大声出さなくて良いじゃない」桑原はたじろぐ。「あたしはただ、佐藤くんとコミュニケーションを取りたいだけなのに」
たいていの場合、佐野という〝イケメン〟が避雷針になってくれるので、極光に女がよってくることは少ない。それなのに、彼女は佐野の名前すら出さなかった。この女、いったいなにを考えているのだろう?
「コミュニケーションが取りたい?」
「うん! 佐藤くんって良く見ると格好良いし!!」
「あぁ、そう……」
「なにさ、その無反応! 女子から格好良いって言われて嬉しくないの? しかも、この巨乳が、だよ?」
男女比率が1:10になっただけで、別に男子の性欲が消滅したわけではない。ただ、不同意で半ば強引に強姦されることがあまりにも多いので、自ずと数少ない男子たちも女子を敬遠しているだけだったりする。
そこまで考え、極光は言う。
「……イヨウ・ファミリーの件を他に言わないのなら、なにかひとつやってやるよ」
変なリスクは負いたくないし、揉め事の火種がデート程度で片付くのなら安いものだ。極光はそういう意味を含んで発言した。
「ならさ~、あしたの土曜日デートしようよ! 大丈夫、あたしはいきなりホテルへ連れ込もうとしないからさ~」
愛らしい笑みを交えてそう言われてしまうと、極光の心も揺らぐというものだ。
「良いよ」
ぶっきらぼうに返事し、極光はあしたの予定を埋める。
佐野が心配気味に言ってくる。「良いのかよ?」
「なにが?」
「この女の口の軽さは、正直計り知れないぞ。女子は派閥を作りたがるものだけど、コイツはどこにも入ってない変人。なぜなら、精神年齢が5歳児くらいだからだよ」
「聴こえてますけど~?」
「聴こえるように喋ってるんだよ。オマエに知られたら、次の日には学年全員が知ってるだろうが」
なにやら険悪な雰囲気。極光が仲裁に入るしかなさそうだ。
「佐野。オマエの言いてぇことも分かるけど、桑原は約束してくれた。今おれらが話していたことを他に出さないと。それに、どの派閥にもいないなら漏らしようがないだろ?」
「まぁ、一理あるわな」
「というわけで、約束はしっかり守ろう。お互いに」
「なんかひどいこと言われた気がするけど、分かったよ!!」
こうして、人生初デートが決まったのだった。