所詮ヤクザの弟
結局、極光もヤクザの弟である。暴力でしか物事を解決できない、という血筋は受け付いているのだろう。
「……血には逆らえねぇのか」
セットしたが垂れ下がってきていた髪の毛を更にすくい上げ、極光はそう呟いた。
*
どうも、極光の能力は任意で発生させられる〝羽〟が、トリガーになっているらしい。おそらく、だが。
そして極光は、佐野たちを巻き込みたくないため、学校の裏側にてひとりで飯を食べていた。
そうすれば、案の定、金属バットをガラガラ……と音を鳴らしながらイヨウ・ファミリーの連中が現れた。
弁当箱をしまい、極光は溜め息をつく。
「オタクら、なんの用?」
一応聞いてみるが、もう意味をなさない。女のひとりが爆発的な速度で極光へ詰め寄り、そのままバットを振り下ろそうとした。
が、
「……!!」
羽がマユのように巨大化し、極光の身体を車の安全装置のように守った。
冷めた目つきで、極光はバットで攻撃を仕掛けてきた女、更にその後ろにいる女子どもを見据える。
「やめておけよ。今なら、宮崎と同じく病院送りで許してやる」
「……!! 舐めた口利いてるんじゃねぇぞ!! ランクCの落ちこぼれがぁ!1」
「現実を見ろ、って話だよ。馬鹿女ども」
極光はまたたく間に、羽を数枚展開させてそれらを彼女たちに撃ち込んでいく。各々悲鳴が響く中、極光は退屈そうに弁当を食べ始めた。
(こりゃ、おれの力ってランクAAAくらいはありそうだな……)
特段変哲のない、コンビニ弁当を頬張りながら、極光はそんなことを考えていた。
「く、クソッ!! こうなりゃ……!!」
スチャ、という音が聴こえた。誰かが出したものだ。おそらくブレザーの中から拳銃でも取り出したのだろう。意味がない上に、一発で実刑をくらうというのに。
「飛び道具とは、随分汚ねぇ真似するな。おめぇはヤクザか?」
「仲間をコケにされて、黙っていられるかよ!!」
「同じ言葉、そっくりそのまま帰すぞ」
だいたい、たいした訓練も受けていない女子生徒が、まともに極光の胴体に弾を当てられるとも思えないし、当たったところで致命傷は与えられない。海外製の改造銃の威力なんて、そんなものだ。姉が名のしれたヤクザなので、それくらいの差は分かる。
「まぁ良いや。弾いてみろよ。この距離から、女性用拳銃が当たるかは疑問だけどな」
「吠えてられるのも今のうちだ!!」
パシッ、パシッ、と銃弾の音が響く。しかしそれらは、極光の胴体に当たるどころか地面を少しえぐるだけだった。
やがて、カチカチッ、とマガジンの弾が切れる音が聞こえた。
「言っておくけど、おれぁ能力使っていないぞ?」
元でも極光の羽をくらったばかりの不良少女は、息も絶え絶えのまま、それでも最後の力を振り絞って短刀を取り出す。どうやらこれで突撃を仕掛けるつもりらしい。
とはいえ、足取りはフラフラしている。極光は向かってくる彼女からナイフを奪い、逆に彼女の首元にそれを突きつけた。
「どうやら、低能力者のようだな」
「それがどうした!?」
ナイフを首へ叩きつけられてもなお、彼女は吠え続ける。
「いや、弱い犬ほど良く吠えるって言葉を思い出したよ」
やはり女性に暴力を振るいたくない極光は、ナイフを遠くへ投げ捨て、その場から去っていくのだった。
*
「極光、オマエまたイヨウ・ファミリーに襲われたのか?」
佐野神楽がそんなことを訊いてきたので、極光は冷静に返事する。
「あぁ。ただ、能力もまともに使えねぇ雑魚どもだった。将棋で言うところの〝歩〟から攻めさせていくのかね」
「なるほど、それで勝てたらラッキーってわけだ」
「佐野も気をつけろよ。ああいうヤツらは、周りの人間から襲っていくからな」
「おれはランクAだ。心配無用だよ」
「なら良いんだけども」
そんな男子だけの会話に、またしても女子が乱入してきた。ただ夏風舞雪ではない。別の女子生徒だ。
「ねぇねぇ、なんの話してるの~?」