家前にて
極光は、家のドアを開けた。
そこには、予想通りイヨウ・ファミリーの面々が立っていた。リーダー格はいないようだが、それでもランクA程度の猛者たちがいる。
「おはよー、佐藤くん。きょうは良い天気だね~」
甘ったるい声で、そのイヨウ・ファミリーの首謀者は不敵な笑みを浮かべる。その他5人。今までの極光であれば、まず敵わない相手だ。
「宮崎の件か?」極光は冷静に問いかけた。
「おぉ。分かってるみたい。あの野郎が警察にチクったから、ちょっと面倒なことになっちゃってさ。とりあえず、謝罪してよ」
おそらく念動力だろう。近くにあるものが浮かんでいる。ランクAともなれば、ヒトを殺せるくらいの速度でぶつけることも可能だ。
「謝罪? なんで、友だちがチクったことに謝罪しなきゃならねぇんだよ」
「友だちの罪は友だちが背負う。だいたい、謝罪するだけで良いんだから、早く謝れよ」
「悪いけど、宮崎がチクったのは当然のことだと思うけど」
「あぁ、そう……」
刹那、浮いていたコインが極光の胴体に直撃した。
「そういうことじゃないんだよなぁ。ほら、謝る気になった?」
されど、極光は全くもってダメージをくらっていなかった。それもそのはず。極光の近くに舞っていた羽が、そのコインの勢いをかき消したからだ。
「へぇ。ランクCの落ちこぼれなのに」
それでも、女たちは不敵な笑みを崩さない。
どうせ、偶然だとでも思っているのだろう。あるいは、ランクAAAの極光の姉がなにかしたか、と捉えているに違いない。
「落ちこぼれだったのは、3日前だけさ」
「なに言ってるの? つい最近行われた、異能力チェックでランクCのくせに」
「嘲笑していられるのも、今のうちだよ」
極光は、なんとなく開発された能力の本質を理解していた。ひらひら舞っている羽が、絶対的な防御にもなるし……絶望的な攻撃能力にもなることに。
瞬間、極光はひらひらと舞う白い羽を、一番後ろにいる女子生徒へ当てた。
そうすれば、
「いっっったぁ!!」
ここで女子生徒たちの顔はこわばる。ランクCの落ちこぼれが、ランクAの女子に致命打を与えた? 彼女はのたうち回り、唾液を垂らしながらその場にへたり込む。
「あぁ。悪いけど、おれぁランクAAかAAAになったみてぇだ」
羽がどんどん増えていく。これをくらえば、ひとたまりもない。イヨウ・ファミリーの連中は、心の底から怯えた。
「クソッ、逃げるぞ!!」
一目散に女子たちは逃げていく。女子に暴力を振るう主義ではない極光は、彼女たちが去っていっていくのを眺めていたのだった。
*
学校へ行き、極光はイヨウ・ファミリーの連中が目をそらしていることを見る。
(そりゃ、返り討ちにあったんだから当然か)
未だ極光の能力は分からないが、少なくともランクAであれば難なく倒せそうだ。推定はAAかAAAか。3日3晩寝込み、苦痛に見舞われたのだからそれくらいの対価があっても良いだろう。
「よう、風邪引いてたのか?」
佐野神楽が陽気に話しかけてきた。極光は、「あぁ。風邪よりひどかったよ」と返す。
「イヨウ・ファミリーの連中が噂してたぞ。佐藤には手ぇ出すなって」
「そりゃあ、アイツらを返り討ちにしたからな」
「はぁ?」
「この前話しただろ? 姉に能力を開発してもらったんだよ」
「オマエの姉ちゃん、ぶっ飛んでるんなぁ……」
「ま、おかげで宮崎の仕返しはできそうだし、結果オーライだよ」
そんな会話を交わしていると、
「なにかあったのかしら。イヨウ・ファミリーがブルってたわよ」
夏風がふたりの会話に参入してきた。
「情報の足は速いからな」適当に交わす。
「でも極光。これからイヨウ・ファミリーの苛烈な報復が始まるぞ?」
「しゃーないだろ。こっちは友だちがやられているんだ。全員仕返ししてやるよ」