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第9話 スクールバスで下着を脱ぐのは緊張すると知ってほしい

笹倉ささくらアサガオは≪湯宿なごむ≫に勤める二十歳の仲居である。

彼女は同じく≪湯宿なごむ≫で仲居をしている三枝さえぐさスイレンと親しくしている。副業の話は主にスイレンが聞いている。

そんな二人と今日は露天風呂を入る時間が重なった。

「スミレちゃんも来てたんだね」

「スミレちゃんが一人で湯船に浸かってるの珍しいね」

アサガオが言ったあとに、スイレンがそう口にした。

サクラやヒマワリの都合が悪く、私が一人のときはたいてい自室の家族風呂に入ることにしている。

でも、たまには一人で開放的な時間を過ごしてみたくなって誰もいない広々とした露天風呂が恋しくなる。

アサガオとスイレンはヒマワリくらいありそうな大きな胸を隠すことなく、素っ裸のまま私の浸かっている露天風呂に入浴した。

サクラとヒマワリが仲居の仕事で清掃をしているから今日は露天風呂にはいない。

「スミレちゃんってテレビアニメの百合ハプニング見たんでしょ?」

「あっ、うん。見てたよ」

「9話どうだった?」

「あいかわらず性的な回だったと思う」

アサガオの感想を求めているのが伝わる2つの質問に率直に答えると、スイレンは口を開いた。

「あれ主人公の笑良えよがヒロインの最空もぞらにスクールバスのなかで下着を脱がしてもらうシーンがあったら魅力的じゃない?って私がアサガオに言ったのがきっかけだったな」

「そうだったの!?」

「そうそう」

私がスイレンの言葉に驚いていると隣で湯船に浸かるアサガオがいった。

いつも仲居として私に接してくれているから忘れがちだけれど、アサガオの副業はライトノベル作家なのだ。彼女の処女作であり人気作といえるのが、私とサクラやヒマワリと会話する際にたびたび登場している≪百合ハプニング≫なのである。

≪百合ハプニング≫の第9話では幾何学模様の霊の仕業でスクールバスでしか自らの存在を自覚できなくなった笑良のブラとショーツを最空が窓にカーテンのかかった車内で脱がせる。そうしなければ、いつまでも車外でのことが記憶のなかだけの出来事と思い込んでしまうという内容の回だった。

スクールバスの車内で最空にされるがまま下着を脱がされる笑良が他の生徒に見つからないか緊張している羞恥に満ちた顔が印象的だった。

「アサガオが百合ハプニングの世界にのめり込みすぎて、仕事中に着物の中に下着を着ずに接客してて焦ってたこともあったなぁ~」

「恥ずかしいって! もう!」

そういって、頬をぷっくらと膨らませるアサガオを見て「ふふふ」と声に出して笑うスイレンの関係をなんだかとても微笑ましいものに思えた。


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