第6話≪湯宿なごむ≫のことは女子高校と思ってほしい
花見サクラは設定にこだわる。
寵愛女子高校に通っている高校一年生という設定の≪湯宿なごむ≫に勤める仲居たち。
そのなかでも、二十歳の仲居頭の花見サクラは≪湯宿なごむ≫を女子高校という設定の湯宿にすることを私の母でもある女将に頼み込んで了承してもらった。
我妻ヒマワリは湯宿の図書室にある図書委員でもある仲居の一人。
彼女もサクラと同様に、幼稚園の頃から周りよりも背が高くてコンプレックスに感じてずっと実家の≪湯宿なごむ≫に引き籠っていた私と同い年の二十歳である。
≪湯宿なごむ≫の図書室に続く通路を渡り廊下と呼んでおり、そこには背もたれ付きのベンチが備わっている。
≪湯宿なごむ≫のトレーニングルームは教室やら体育館やらクラスといった俗称が使用されていて、≪湯宿なごむ≫の利用者は生徒と表現する。
女性専用の≪湯宿なごむ≫では浴衣のことを制服と呼ぶ。
私と両親が個人や家族で使うスペースのことは家と呼んでいる。
「その設定めんどくさくない?」
恋人のサクラにそのことを最近になって打ち明けた。
「私たち設定上の女子高生だもんね。スミレは労働者じゃないし生徒のことも利用者って呼ぶのが普通だよね」
湯船に浸かりながら、私とサクラは語り合った。
「ところでヒマワリって性的なことに首を突っ込みたくなる性格なの?」
「あれは、私らと仲良くしたくて過剰になふりしてたみたいよ」
「女将に友達の少ないスミレと親しくなってほしいって頼まれたんだって。もともと自室からあまり外にでないスミレが同い年と知ってからヒマワリはスミレのこと気にはなってたみたい」
利用者の使用が禁止されている遅い時間に、貸し切り状態の露天風呂の湯船で大きな胸を浮き上がらせながらそう語るサクラに少女らしさは微塵もなかった。