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ヒト斬り侍の"怪"護譚  作者: 琴璃ぴぃ
ヒト斬りに御用心
6/7

ヒト斬りに御用心 伍

 夕日が沈み始め、辺りもだんだんと暗闇に包まれてきた。

 そんな状況も関わらず、俺たちは立ち止まっていた。

 それは、宝石箱のような夜景が目の前に広がっていたからである。


「あとはこの山を下ればコグレの町にたどり着くな。最初はどうなる事かと思ったが、途中で走って良かったな。おかげでこんな素晴らしい景色を見ることができた」


 ”何か”に襲われた直後、俺たちは日暮れ前にたどり着けるようにと、走りながら進んできた。

 そのおかげもあり、日暮れ前に目的地のコグレの町が見えてくるほどのところまでやってこれた。


「本当はこの夜景をコグレの町の展望台から見たかったのですが、ここからの景色でも十分ですね」


 荷車を引きながら俺の左隣を歩く鹿の姿の怪人(もののけ)意朴(いぼく)は「人斬り」と恐れられ、無明山の浮世寺に身を隠していた俺に護送の依頼をしてきた。


 護送の道中では”何か”に襲われかけ、その流れからお互いの秘密を話し合って信頼を深め合ったり、進みながら様々な会話をしたり、と人と怪人の争いが存在するこの世界において異質ともいえる時間を過ごした。


 そんな時間もこの山を下りきれば終わってしまう。

 寂しさを感じながらも、護送という本来の目的を忘れてはいけない。


 そんなことを考えながら、左腰に差している刀がずれることの無いよう、俺は腰の紐をきつく締め直した。


――ガサガサッ


 その音は、これまで半日以上歩いてきた俺と意朴に、音の主が野生動物ではないことを知らせてくれた。


 俺と意朴が目を合わせ、意朴が少し後ろに下がり、俺が少し前に出たその瞬間、”それら”は目の前に姿を現した。


「いやぁ、まさか怪人の護衛に人斬りがついてるなんて思わなかったぜ。危うく部下の一人を無駄死にさせるところだったなぁ。でもおかげでこっちは総動員でここに来れたんだ。うちの部下優秀だろ?」


 動物の毛皮で作った衣服に身を包み、手にはこん棒、斧、針などを持った集団が目の間に出てきたかと思うと、その先頭に立つ一際大柄な男が挨拶もなくこちらに話しかけてきた。


「どうだろうな。猪を使わなければ俺たちの前に姿を現すつもりだったんだろ? つまり一人じゃ何もできない無能だったってことじゃないか」


 礼儀のない大柄な男に対して、俺も直接的な攻撃の言葉を返す。

 すると、みるみるうちに大柄の男は顔を紅潮させ、俺たちを睨みつけてきた。


「もう、すぐだ。いけるか? 意朴」


 俺が鞘に右手を掛け、後ろを振り向くことなく意朴に声を掛けると、目の前の大柄な男たちには聞こえない俺にだけしか聞こえない小さな声で呟いた。





 私は今、生と死の当落線上にいる。


 目の前に立つ、一人の侍がもっと奥に立っている大勢の人々、おそらく私の怪能を狙ってここにやってきたであろう、怪賊(かいぞく)たちを追い払うことができなければ、私はこれから先、死ぬまで自由を失うことになる。


 チャンスは一回限り、失敗すれば死をただ待つだけの身になる。


 それでも私は確信している。この侍が失敗することはないと。


 いや違う。

 私たちなら失敗しない。


 なぜなら―――


「ちょうど()()()に、午前一時の方角……」


 という私の呟きの後、侍の背中がこれまで出会ってきた何よりも大きく感じられたからだった。





 意朴の呟きを聞いて二秒ほど経過して、目の前の怪賊たちはこちらへ向かって走り出してきた。


 さらに二秒後、先頭の大男が走りながら背中から大きな斧を取り構えた。


 さらに二秒後、大男の後ろの怪賊たちが走りながら各々の武器を持って攻撃の体制に構えた。


 そこから二秒弱、怪賊たち全員が同時に地面を強く蹴った。


 その直後、まさに意朴の呟きからちょうど()()()、怪賊たちのほとんどが俺の体から午前一時の方向で一直線上に並んだ。


―――本当に未来予知したんだな。


 そう心の中で呟きながら、俺は刀を抜き、その勢いのまま午前一時の方向に切り上げた。





 目の前に見えている光景は本当に現実なのだろうか。

 

 倒れることすら信じられないような大男がその一斬(ひとき)りに倒れ。

 数十にもなる他の怪賊たちが、たった一度の切り上げで吹き飛ばされていく。


 他の怪人たちに話したら、なんて言われるだろうか。

 誰も信じてはくれないだろう。

 でも、私だけは、この目ですべてを見届けた私だけはこの光景を信じる。


 そんなこと考えていると、刀を鞘にしまっている侍に声を掛けられる。


「一人だけ残ってるが、これで十分だ」


 その侍は額に汗をかきながらも、私に微笑みかけてくれた。


「あえて目撃者を残すことで、抑止力にするってことですか……さすがですね。『一斬り侍』さんは」


 たった一人、あの一斬りの影響を受けることなく無傷でいられた怪賊が逃げ出していく様子を見ながら、私は振り返る。

 数時間前に襲われた後、お互いの秘めたる思いを明かしあった後、歩きながら話し合った記憶を。

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